優しさの香水
優しさの香水をまぶしたコートの第一釦(ボタン)をとめ、
わたしは鏡の前で ピアスを弄る
このリップの発色の美しさはわたしの
ご機嫌を取るためにある。
心の泥濘
今朝は気苦労が九割を占めている
やらなければいけないことをこなすための準備が体力を奪い
詐欺師のように周到で人懐こい笑みを浮かべている。
気づかれても困る
色んな意味で
他者はお客様のようで
淋しいけれど申し訳ない
猫なら許されるか 犬が好きだけれど
ぐったりしてみたい
きまぐれに とびきり 油断して
誤字脱字を酸素に招き入れるような
会話をしていたい
睫毛のカーテンを閉める。
しなやかに街が静まり返るとき
わたしは白い雪を捕まえてその一粒一粒を黒く染めてみたくなる
あれもこれも
全然気にしていない
言葉に棘はあったけれど
そう誤魔化した瞳は、
月曜日のオフィスの化粧室の中ではらはらと埋もれていった。
あれは本当は
気にしなければいけないことで
その場で反論しなかった自分に肩を落とした。
ある時に
あなたは悪くない
と、誰かの苛立ちをなだめる人になってから
それは〝傷ついた〟と上手に伝えられない自分にさらにいらだつ。
あらゆる惰性や犠牲に加担しているようで
自分自身にがっかりした
わたしの心の中でどれだけの勇気が腐って行ったのだろう
深夜の泥濘 今度は浴室の鏡の前で肩を晒す
タトゥーシールを台紙からなるべくゆっくり剥がした。
恐い、 言いたくない 本当は?
〝あなたが悪い〟
赤く充血した瞳が怒っている
文字を打つのを止めた
こんなに急に話すのが虚しくなるのは
脳(ニューロン)のせいなのか
知りたい
時めくように憎しむように高揚しながら
ある薬を見つめる
確信はないが
わたしの優しさはいずれ消える香水みたいに瓶の中 コロンの隣に
とじこめられている。
臆病なわたしの肩をインクが通過して痺れを広げて行く
コメント