祈り

ずっと
ずっと死にたかった
具体的には
41年死にたかった

死んでしまうかもしれないという
漠然とした不安と
死ぬことに対する憧憬の編み上げた
美しい一篇の叙情詩

そこに一滴白を垂らす必要が
あったのだろうか
暗く沈んだ色の洪水の中に
まだ別たれていない全ての始まりの無

それがあなたにも見えると思った
その為に生かされていることを
きっと分かってくれるだろうと思った
あなたは期待を裏切ったのだ

その美しい鳥の名を私は知らない
どのようにして生きてきたのか
朝日を浴びて眠るその白い頬を
撫ぜながらただ温かいなと思うだけだ

その一滴の汚れを
私達は神と呼ぶのだ
私達ではなく
そして私達より美しいもの

死んでそこへ行くことを
何よりも望んでいるような気がする
百合の花の匂い
微笑んで手を取るものを死神と人は指差す

死んでしまうかもしれないと顔を伏せながら
生きていく人達の世界は見えない
でも彼らが迷っていることを感じる
指差した先に幸福がある気がして

ああ
あなたが神なら良かった?
この小さな手に掬えるものがすべて
こぼれ落ちていくものがすべて

病ではない
確信と希望
海はすべてを浚う
ひとつに還るのだ

命は繋がるものだと神は私に教えない
途切れるものだと許す
消え去ることを救いだと笑う
たった一人戦火に生き残ってしまった父のように

愛も恋も知らなかった
誰よりも孤独のままの
純粋無垢な
かつての少年のように

投稿者

神奈川県

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。