ささくれ

胸の筋肉が動的に止まっている

義母から
電話がかかってきた
いつも一回鳴らした後、
二回かかってくるのだ
その前、
妻が玄関を開ける音がした
階下に降りると、
誰もいなかった

義母は本がないという
持っていったのではないかと
それは確か
「ホウゾウノウミ」と言っていた
図書館の返却期限が過ぎている
返事を聞かずに
ガチャリと切れた
胸の血管がささくれ立つ

冷たい空の気が肌を刺し
妻はどこを漕いでいるのだろう
血管を目から出た雫が通過した
たまねぎ
しいたけ
にんじん
にんげん
スーパーで何を買っているのか

妻の帰還を待ち
気晴らしに捲った
「そのなかに射し込む陽の光の縞や、そこに淀む日溜まりがとても・・・・・・」*
「とても何だ」というのだろう
もう頭に入ってこない
目を瞑り深く吐いて深く吸い
私の胸は
「帰還」という言葉をなぞっている

*・・・鷲田清一『ちぐはぐな身体』(ちくま文庫)の一節

投稿者

神奈川県

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