歳月

 明るめなえんじ色で
 胸下切り替えのスカート部分が
 フレアシルエットになっているワンピース
 とおい日、これを着て
 近所のスーパーへ出かけた微笑も
 あのひとは知らなかった

 独居の食卓に上がる
 いつもと変わりばえしない食材でも
 アウトレットモールで気に入った雑貨を
 選ぶように手に取りカゴへ入れる
 ただマタニティウェアに見える装いを
 しているというだけで

 遠距離交際で望むように会えなかった
 あのひとに電話で
 月経が二週間以上遅れている事を告げた
 まばゆい雪原で跳ねる
 ユキウサギをみつけたと思った
 口元が緩むのを抑える彼の慎重な返答で
 見極める事態は間もなくして
 小さな影に見えたものが素速い雲にのって
 北のお月さまへ消えてしまう

 それからはタンスの肥やしとなり
 ゆめのない夜に沈んでしまった
 えんじ色のワンピース
 彼には一度も見せる事なく
 リサイクルショップへ流れていった
 真紅の絨毯を裸足で歩いてみたい願望が
 私にもあったけれど
 
 石油ストーブでリビングが温まるのを待つ朝
 魚焼きグリルを開けて
 ひっくり返す塩鮭の切り身
 お弁当のおむすびを握りながら
 特別な事もなく一日が過ぎて欲しいと願う
 現在は、そんな暮らしの歳月が
 しなう影を返して胸に籠っている
 

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 特別な事もなく一日が過ぎて欲しいと願う

    ここが特に好きです。
    全体的に 落ち着いた 空気感を この詩の 主人公(作者ご自身か?)が かもしだしていると思います。

    歳月を経て、分かってきたり、味わい深くなどなる人や物事ってありますよね。
    どんどん、すてきになって行くといいです。^^

  2. @こしごえ

     こんにちは。お読みいただきまして、ご感想のコメントをくださり
    どうもありがとうございます!
     そうですね……。この年齢になって書けた作品だったかなと感じます。
     詩は基本的に「私」の思いを述べるものという点で小説や俳句と異な
    るかと思っています。自分の感じていることを、しょせん他人事だとは
    思わせないような普遍性を獲得できているかどうかが詩の成否に関わっ
    てくるのではないかと考えます。詩精神、表現ともに研ぎ澄ます難しさ。
    呻吟しなくてもふと溢れ出た言葉が、一編の詩になっていたというよう
    な天性の詩人ではありませんから。自分の原稿に悶々として落ちこむ事
    もあります。それでもしぶとく書き続けたいと思うのは、やっぱりただ
    好きなんでしょうね。^^

コメントするためには、 ログイン してください。