風琴のヴェネツィア
復刻された風琴を聴くと、
あの喧騒が
低音としてよみがえる。
華やぎは消え、
奥でひそやかに鳴っていた
もうひとつの旋律。
だが今は知っている。
あれは、
心が自分を試すための
最初の演奏だった。
霧。
砕けた金の灯り。
胸に降り積もる音符。
あのとき私は、
未来の記憶を
生きていたのかもしれない。
カーニバルは
残響となり、
静かな和音に変わった。
仮面の笑顔。
紙吹雪の音。
すべては風琴の内部に沈み、
今も低く、長く、
私の奥で鳴っている。
二月のヴェネツィア。
街は仮面を被っていた。
若かった私は、
その熱に触れ、
危うく、きらめいていた。
石畳の音。
跳ねる笑い声。
運河の万華鏡。
仮面の視線。
遠くの太鼓。
すべてが
前奏曲だった。
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