緩慢な融解

ベランダから放り出た蛍光灯を見て「おかしいね」と君が笑うので、
僕はそれがおかしいことなのだと知る。

流水解凍しようか。

雨の音が大きいから僕達の他愛もないおしゃべりはすっかり内緒話になったし、
眠れなかった夜の残滓がまぶたの周りにこびりついていて。

けれど、

お風呂あがりの身体はいつだって、とてもじゃないが眠る気になどなれずに、
僕の内側で脈打っている鎖骨の痛みさえ眠ったら跡形もなく消えてしまうよ。

「あなたにならなんでも言えるの」って君が言う。
「あなたとわたしは同じだから」なんて君が言う。

そんなことは決してないのに。

非対称性に美しさを見出すのは捻くれているだろうか?
対称性にしか帰着し得ないのは凡庸だろうか?

どうだろうね。

衝立を挟んだ向こう側を想像すると居ても立っても居られなくなるので、
僕は自分がつまらない存在なのだと思う。

誰よりもきっと普通を希っているのに、
普通であることをまるで悲劇であるかのように振る舞ってみて。

起き抜けに僕は君への呪詛を吐いた。
ゆるんだ理性と誰かの本能が僕を数瞬支配していた。

あのとき僕は確かに君を憎んでいたよ。
君はそんなことは露知らずにいる。

削られて掘り起こされて剥き出しになった床の上を歩いた。
足の裏がじんわりと痛んでいる。

固まって死んでしまった細胞を流水解凍しようか。
そうしたらほら、晩御飯をしよう。

おいしくないものでも「おいしいね」と言おう。

ベランダから放り出た蛍光灯を見て「おかしいね」と君が笑うので、
僕もそれがおかしいことなのだと笑う。

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