昔話

檸檬の中に広がる
羊水をわたしたちは泳ぐ
蝉の鳴き声が聞こえて
夏なのだと思う
どこまでも続く坂道を
ひたすら下っていく記憶
錆びた風鈴に
気を取られている間に
机の上の星屑は
あなたが引き出しに
しまってくれた
ほどけていく毎日の連続
わたしたちが大切に
握りしめていた切符は
空白で埋め尽くされてしまった
午後、村田橋の上から
川面に檸檬を投げる
昔話のように
いつかあの中から
わたしたちが産まれる
それは救いなのか
よくわからないけれど
かつてわたしたちは
わたしたちの産声を
確かに聞いたのだった

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