記憶の形
プラナリアは
分裂した頭側と尾側
再生したどちらにも
元の同じ記憶がある
という話には驚愕した
記憶とは脳に保管されたイメージだと
思い込んでいたため
俄には信じ難く
ネズミにまでも
RNAに記憶機能がある可能性は
哺乳類仲間として
非常なる衝撃である
思い返す昨日の通勤電車
吊革につかまる自分が
回想に含まれていることで
すでに真実の鏡としての記録ではなく
過去をうつした鋳型であるが
この記憶は一体
僕の何処にどのような状態で
保管されているのだろう
僕は夕焼け空を見ると
胸が締め付けられるような
懐かしい思いに
駆られることがある
しかし僕には
夕焼けにまつわる
印象的思い出はない
混乱する僕に
追い討ちをかけるのは
共食いしたプラナリアは
食った相手の記憶を
獲得するということだ
記憶は個人唯一のものと
疑ったことさえなかったのだが
RNAが個々を越えて
記憶を保存するならば
ある日の夕焼けに
心震わせた誰かの記憶は
連綿と鎖のように
持ち主を変えて生き続け
この時代まで辿り着いた記憶は
僕の目を通して見た茜の空を
発露によみがえり
今も尚
他者の心をゆさぶる強さを
有すると言うのか
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