練習

交差点、水槽
わたしは冷奴が好き
わたし、齧る、冷奴を
交差点の真ん中
水槽の水底で

齧る、冷奴
どうして、こんなに硬いの
どうして、こんなに冷奴が好きなの
水槽の水底の
呼吸は難しいけれど
信号が色を変えて
その度に綺麗だから
また新しく季節のようなものが
観測されました

買い物に行きたかったのに
触れたいものがあったのに
何故わたしは
交差点、水槽、水にまみれながら
冷奴を齧っているの
こんなにも冷奴、好きなのに
何故冷奴は
わたしを齧っているの
それはくるぶし
それは太もも
わたしこそ硬くてごめんだけれど
つけられていく冷奴の
柔らかな歯型

海で溺れたあの日
助けてくれたのは
わたしの知らない人でした
その人の腕に掴まりながら
見上げた空のどこか真下で
本当に溺れていたのは
水槽の冷奴だった
そんなオチに顔を見合わせて
わたしたちは笑いました
練習したとおりに笑いました
風だ、とその人が
指を差して言いました
視線を向けた時には
あるはずの風は
既にありませんでした

風呂入れよ、入りました
歯磨けよ、磨きました
宿題やったか、ありませんでした
また来週
その日はもう来週でした

薄く広がるテーブル
表面に映る窓、その青空と
買ってきたものたち
必要だけれど
大切、と言うには
あまりに他愛のないものたち
豆腐を冷蔵庫に仕舞いながら
わたしは思いました
消費期限がおとずれる頃
また夏がひとつ
来るそうです

投稿者

コメント

  1. とても良かったです

  2. 4.5次元の不条理に少し酔いそうになりました。
    「宿題やったか、ありませんでした」で、ふっと息が抜けて。
    とても良かったです。

  3. @川村アレクサンデル
    川村アレクサンデルさん、コメントありがとうございます。
    とても良かったです、確かに受け取りました。正直、ほっとしています。

  4. @風太郎
    風太郎さん、コメントありがとうございます。初期段階はもっと混沌としていて気持ちが悪かったです。
    全員集合のエンディング、知らない人の方がもう多いくらいですよね、、、

  5. たけだたもつ様のなかでは、珍しく女性的な詩だと感じました。冷ややっこが硬い、というのがまず女性的。その後、読み手の期待を裏切るような叙述が続いていく。でも、最後の最後で、「理性」に帰る。そこらへんが、たもつ様の「らしさ」かなあという。女性性を遊びつつ、最後は理性に帰る、といった感じで、「あたらしい詩の感覚」を体現している作品かなあと思い、正直うなりました。^^

  6. @a.o.
    a.o.さん、コメントありがとうございます。
    柔らかい感じで書きたくて、一人称を わたし にしています。同じ響きなのに、私 と書くと、硬くて男性っぽいですよね。
    a.o.さんご指摘の、冷奴が硬いというのが女性的、というのは、何だろう、真新しい感覚で本当に目から鱗という感じで素敵なプレゼントをいただいた気持ちです。

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