ざしきわらし

ぼくは、ある古民家を訪れていた

そこは旅館なのかもしれない
夜になってぼくは案内された部屋で床に就く
なかなか寝つけない

妙にしんとした部屋に明かりはなく闇夜はぼくを眠りには誘ってはくれない

部屋の片隅に幼女が佇んでいるのに気付いた

闇の中で存在が認められるのは彼女が自ら微かに発光しているからだろうか
幼女はぼくに何か声をかけたが、呼吸する程度の小声なのでその意味を把握できなかった

よくあるような挨拶だったのかもしれない
「きみは、ざしきわらし?」
ぼくはどこかで聞いていた話から類推したことを闇の中の燐光に尋ねた
幼女は肯定とも否定ともとれない会釈を返す

ぼくは続けた
「君の姿を見たら何かいいことがあるの? お金が儲かったり出世したりとか」
「よくそんなことをいう人がいるようですね。でもわかりません。あたしがそうしようと思ってやってるわけじゃないから」
突然、幼女の背後の障子の向こうに光が溢れ、障子は勢いよく開かれる
強力な光源がこちら側にもあって幼女はスポットライトに照らされる
続いて照射されたのはレーザービームのように見えた

光の束の中に幼女は立っている

小さい体にストラップで下げたギター

フェンダーテレキャスターだ

幼女の背後に何か建築物が聳え立っている

視界のなかを確かめるとそれはそんなに巨大なものではなくてドラムセットだった

スティックを握っているのは幼女より少し年上の少女に見える
幼女のような童顔でないし体も大きいからそう見えたのだが

あるいは同い年なのかもしれない

ベースを弾く少女も同じ背丈で少し大人びた顔だ

スリーピースのバンドが演奏を始める
自分がいつもよく聴いているガールズバンドとは違うようだ
どちらにしてもグランジだろうか
ヘヴィメタ? ちょっと違うね
メロディアスなリードギターは出てこないようだから
やはり強いて言えばパンクかな

ざしきわらしが叫ぶパンクロック

ロリータたちのパンクロック
緊張感をはらんだヴォーカルが呼びかけている 
男とも女とも子供ともつかないい声だ
第X次性徴を過ぎていない声

ドラムスは少女の華奢な体つきに反して力強い

強いリズムで宇宙の彼方まで引きずっていく

ベースのフレーズは垢ぬけていて心地よい

刻んでいるリズムはきわめて繊細だ

ギターをかき鳴らし歌う幼女の斜め左からのショット

ストロークを繰り返しながらゆらゆら揺れる

喉の奥から絞り出そうとしているパワーに満ちたファルセット

ざしきわらしたちは何かをぼくに伝えるために会いにきたのだ

でもぼくはそれを解読できない

幼女は素足で立っている

その白さがぼくの目を晦ます

ぼくはもう一度尋ねた

「きみは、ざしきわらし?」

幼女は肯定とも否定ともつかない答を首の動きで示した

「あたしたちはリーガルリリー」 

3人が同時に口を開く

無数の切り花が降ってくる

百合の花だ

切り花が床を埋める

素足の足元を鏤(ちりば)め

投稿者

静岡県

コメント

  1. ご無沙汰してます。
    タイトルや冒頭から想像していたものから、一気に斜め上に突き抜けていくのに、最後にちゃんと着地してるのが良いですね。リーガルリリーは「リッケンバッカー」が好きです。

  2. ame*さんっぽいなと思っていたらやっぱりそうだったのですね。twitter外ではお久しぶりです。ざしきわらしがパンクロックグループになるという感性は常人ではありません。

  3. >トノモトショウさん
    『リッケンバッカー』はなんだか自分のことを歌われているような気がします。
    「キミは人生をやめた」って感じですねw。
    >たかぼさん
    感性というより白昼夢ですよ。昼間から酔っぱらってるみたいな。

    お二人とも二度と会うことも、そんな場所もないと思ってましたが・・・。

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