砂原の浮草
砂原の浮草に花が咲いた
循環バスの窓を開けて
その様子を見ていると
返事のような風が
耳たぶに軽く触れる
祖父はかつて
西洋菊を育てていた
祖父のことは好きだったけれど
大事にしていたその花を
わたしは一度も
綺麗と思ったことはなかった
それよりも
裏口で微かに響く靴音が
月の形をしていて
深呼吸をすれば
消えていってしまう
そんな儚さに心を奪われた
風がそうしたように耳たぶを
自分の指で触れてみる
触れたはずのものは
いつもどこにもなくて
いずれこの耳たぶも瞼も唇も
わたしを離れていってしまう
降車ボタンを押す
浮草が浮草でいられるよう
いつかこの砂原にも
雨が降ればいいのに
祖父をおじいちゃん、と
呼んでいたわたしは今も
祖父の名前を知らなかった
コメント
儚さのなかにも、何処かに希望を探ろうとしていて。
最終行のまとめが静かに効きました。
月の形だけがそっと残されて。