夕暮れ
人の愛の中に悲しみは含まれちゃいないけど
人の愛を形作るには悲しみが必要なんですね
サンゴ礁の風は、彼女の服をやわらかくこすりながら
そう言って海へと還った
彼女は元来、アイラブユーという言葉を
あなたを愛してるではなく
月がきれいですねと、訳す類いの女性だから
裸足でさざ波をとらえる姿は
他の何よりも白くて
にぎった手のひらは
かすかに夕暮れの匂いがした
終わらないことなんかひとつもないみたいに
沈むひかりにゆったりと目をほそめる
それはただ眩しいからそうしたように見えたが
彼女からすればそれは
抱きしめるという気持ちをまねた
誰も知らない温度のあたたかさで
だから
彼女が悲しみをすべて受けとめて泣いたりするのは
人を愛する心がやわらかすぎるせいなんだろうなと
僕はそう思った
コメント
「彼女」は、きっと佳い詩人になれると思います。彼女の作品を読んでみたい。感受性は大事ですね。
クールな優しさに満ちた世界ですね。それは至福。たぶん。
最初の2行がこの詩の全てかなぁと思う。
読んでると、よく分からなくなる箇所があるのに、でも実はものすごく深くに入ってきていて、よく分かった気になる不思議な詩
恋の無い詩は有るが、詩の無い恋は無いな、と、この詩を読んで思いました。
ただただすてきです。
ことばからことばへの移り変わりの感性がとても。