わたしのスピーチ

マルゲリータを食べようとした時に
結婚披露宴に招待されてしまった
セブンイレブンのすぐ傍にある
立派な結婚式場だった
ご祝儀もなく着ているのも普通の服なのに
円卓に座らされたのだった
もちろん新郎新婦も知らない人だ
もしかしたらどちらかの両親の知り合いなのかも
と思い両家の両親を見たが
新郎新婦以上に知らない人たちだ
緊張するよね
隣の席のミホさんという人が話しかけてくる
大丈夫だから
何が大丈夫なのかわからない
披露宴は順序良く進み料理が出てくる
それよりもわたしは
食べそこなったマルゲリータが惜しくてたまらない
わたしもマルゲリータ、好きよ
ミホさんは残念そうな口ぶりで言うけれど
この人にわたしの何がわかるというのか
それでは一番のご親友にスピーチをいただきます
司会者はそう言ってわたしを指名した
スピーチなど考えてもいなかったし
そもそもわたしは新郎新婦どちらの友人なのだろう
隣にミホさんがいたから新婦側かとも思ったが
同じ円卓の半分は二人と同年代くらいの男性だ
頑張って
とミホさんは小さくガッツポーズを送ってくる

それでは友人を代表して一言申し上げます
本日はお日柄もよく
新郎トモヒコさん(式次第で確認した)
新婦ユミさん(式次第で確認した)
お二人のこれからを祝福するように
どこまでも青空が広がっています

わたしはマルゲリータが好きでした
歯型をつけるのが好きでした
チーズが焼けた香ばしい匂いと
バジルの芳醇な香り
何よりその食感が
他の物を食べているようで好きでした
母はイタリア人ではないのに
よくマルゲリータを焼いてくれました
イタリア人になりたいのかな
と思いましたが
イタリア人になったのは別の人でした
青空はこのまま
遥か遠くのイタリアまで繋がっている
そう思うと
いつも母は一緒に空を眺めてくれました
それから飛行機のお話をしてくれました
翼を無くした飛行機のお話でした

わたしは数年かけてスピーチを終えた
式場はひっそりとした水族館だった
水槽をコツコツ叩くと
名前の知らない魚たちが集まってくる
受付で買った餌をやろうとしたけれど
水槽のどこから餌をやればよいのか
どこにも説明はなかった
仕方なく餌の包みをミホさんに渡すと
お疲れさま
ミホさんはかわりにマルゲリータをくれた
一口食べる
初めてその美味しさに気づいた人のように
涙が流れた
 

投稿者

コメント

  1. 漲るホラー感!(笑)
    「いつまで経っても、わたしのスピーチの順番はこなかった」って流れかと思ったら、まさかの「数年かけて」スピーチするとは。

  2. あたふた過ごしているうちに、あれっという間に数年過ぎていきます。
    自分にとって大事なことに、時間をかけられず、段々離れて行く。「わたし」はマルゲリータにたどり着けて、良かった、良かった、です。
    てんやわんや頑張ったあとに、求めていたものがご褒美に現れる、そんなことが全員に起これば良いのに、と思います。

  3. 次はこう来るだろうと思いながら読みすすめるとあっと驚く展開にすり替わる。それがたもつさんの真骨頂ですね。

  4. ミホさんはかわりにマルゲリータをくれた
    一口食べる
    初めてその美味しさに気づいた人のように
    涙が流れた

    ああ、この詩を拝読 出来て、とても良い読書時間を頂きました。

    ラストで、ああ、と救われたような気持ちになりました。

    私は、時々、作品で言っていますが、何事も、初めての経験 なんだと思います。
    たとえば、毎日繰り返す 歯磨きも、その時、その時が、初めての経験なんだと思う。それは、ありがたいこと。だから、
    この詩の「わたし」は、その大切な経験に、涙した、のではなかろうか、と推測します。

    たもつさんの思いが 宿った 詩には、いつも、こころが 動かされる。たもつさんの詩は、みんな そういう詩の力を、持っているんだ、と思います。

  5. @大覚アキラ
    大覚アキラさん、コメントありがとうございます。最近、少しホラーの方に振れているかも・・・
    いろいろ分岐がある中で、ご指摘のとおりスピーチが回ってこない案、ウェディングケーキがマルゲリータ案、新郎新婦が自分の両親案などもありましたが、ここに落ち着きました。

  6. @野鳥倶楽部
    野鳥倶楽部さん、コメントありがとうございます。
    苦労が報われた時は本当に格別な気分ですよね。報われないな、と思っていても、実は長い時間をかけて報われていたり、ある日ふと成就したり。
    マルゲリータは皆んなの心の中にあります!ん、なんか違うか。

  7. @たかぼ
    たかぼさん、コメントありがとうございます。予定調和も実は大好きでこういくだろうな、というものを、そのとおりに書いたり。また機会があればそのようなものも。

  8. @こしごえ
    こしごえさん、コメントありがとうございます。
    新陳代謝し、細胞が生まれ変わり、瞬間瞬間を新しく生きていく、わかる気がします。
    それは救いであり、また、逃げることのできない循環なのかもしれませんね。

  9. 喪失、あれよあれよと進んでしまう人生の話?こんな形で失いたくなかった童貞喪失の話かな。とか。自分の人生のはずなのにコントロールできない部分が大きくてコンベアーのように運ばれてあっという間に人生は終わりに近づいた。周りには同級生たちもいなくて、人生お疲れ様、と言われたわたし。自分の人生だけど不確かで、最期も、初めてその美味しさに気づいて泣いた、ではなくて、ように、という表現。自分のことなのに。あの食べ損なったマルゲリータだけが、自分にとって、確かななにか、だったのかな

  10. 改めて読んだらたしかなものは母のマルゲリータだったのでまた考えます…食べ損なったマルゲリータとはなにか?抱けずに逃した女性のことかな…考えます

  11. @花巻まりか
    花巻まりかさん、コメントありがとうございます。
    まだ童貞なんですけどね、などと言ってみるテスト。
    非常に交際範囲が狭いので結婚披露宴などは数えるほどしか行ったことがありませんが唯一のスピーチは笑わせようとして思いっきり滑った忘れたい記憶。
    それよりも、酔っぱらった勢いで新郎の頭からビールをかけて貸衣装のクリーニング代を請求されたのはプチ騒動でした。
    確かなものほど両手に留まってはくれないものですね。

  12. 庭にピザ焼き窯を作ろうと思いますが、なにしろ隣が〈ピザ屋〉ですので、なんらかの〈あいさつ〉が必要だと考えています、ピザ屋の主人が女性である場合は、〈ピザ型のネックレス〉が良いのでしょうか、よろしければ、御指南ください、ちなみに我が家は、アルプスの頂上ですので、とても良く見えるのです、ピザ型のUFOが。

コメントするためには、 ログイン してください。