UFO

   
   
   
今日僕はこんな話を書きたい
   

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朝焼けを懸命に浴びて
どこまでも遠くにのびつづける影とか

皆が大人になるときに捨てるモノクロの感情を
寄せ集めて作った出来損ないの砂のお城とか

まるいレコードが月光に照らされたときの
嘘がひとつもないささやきとか

この世の中は風水で出来てると勘違いしている
頭がだいぶご機嫌な男性のお気に入りの額縁とか

人の知らない夜の頂きを
角ばった背骨に刻む
流れ星を運ぶロバとか

海鳥の羽ばたきを記憶に残す
無骨な一眼レフの気持ちいいシャッター音とか

寝ている猫の丸みを
虫メガネでじっと眺める休日とか

三寒四温が運んできた
裸足のままのぬるい季節とか

見よう見まねで作った
田舎のおばあちゃんのボルシチとか

白いワンピースからあらわになっている
白い肩と深い空の青の重なりとか

光がピアノの鍵盤に当たって乱反射する
日常のありふれた奇跡とか

神社の鐘が
白い雲と踊り続ける正午とか

雑にホースで水をやりながら上へ上へ育つ
つややかなヒメシャラとか

木づちに叩かれるたびに甘い匂いをただよわせる
ヒノキ材の無垢な純情とか

捨てるに捨てられなかったシャボンの液体を
空に溶かし終わったときの清々しさとか

ハートのヒビをうめるために
ちょっと辛くしすぎたキムチとか

枠回しでぱっきりと区切られた泥の中に
美しい足を潜らせる乙女が宿す穂の重みとか

路上に水をまく中華料理屋のお姉さんから
とことこ逃げてくツバメの可愛らしさとか

雨の水たまりにたゆたいながら帰りを待ち続ける
赤い花びらとか

死ななくてもいい理由と
生きててもいい理由がほしいだけの
群れからはぐれたシャチの涙をぬぐう指先とか

ツツジの花言葉を空に透かして笑いあう
子供たちの透き通る姿とか

犬の方が好きと
猫背でいう猫目のダンサーとか

古本の香りにあくびする
長い髪のまどろみとか

足りないものはぜんぶここにあったよと
弾き語りをするマフラーの旅の終わりとか

サッカーボールを追いかける二人の少年を
包みこむ夕凪の歌い方とか

天使と悪魔が無邪気にはしゃぐ
さびれたメリーゴーランドとか

海に沈んだ螺旋階段を住みかにする
小さな魚たちのうろこの形とか

会いたい人の名を唐突につぶやいたことを
うやむやにするために吸ったチョコレート味のタバコとか

喝采とクラッカーが飛び散らかした
祝福が終わった後の静けさと顔の火照りとか

電話で素っ気なくさよならを言われた直後の
ピーナッツの噛みごたえの心地良さとか

キスに気をとられてフタが開けっ放しの
泡の弱いサイダーとか

遠くの山道を走るヘッドライトをみつけて
UFOを見つけたときのリアクションをする
ちょっとおかしくてやさしい心を持つあなたとか
   

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今日僕はそんな話を書きたい

楽しい話をたくさん書きたい

優しい話をたくさん書きたい
   
   
   
   
   
   
   

投稿者

東京都

コメント

  1. 何気無い日常の物事(しかし、ふしぎな言葉たち)をたくさん並べてあること、その並べられた物事一つ一つがすてきで読んでいて楽しくなりました。読者に読ませる力のある詩だと感じます。

  2. 死ななくていい理由も生きてていい理由もごまんとあると思うけど、その中から小さくてもひとつでいいから掴めば、それが生きたい理由になる。
    あくんは、たくさんのしあわせを見つけることができるから、あとは掴めばいいだけだと思う。眺めていないで
    人生はいつ、どこで、なにが起こるか分からないからたのしいよね

  3. このスタイル、好きです。
    書きたいと言う「そんな話」は日常で見たかも知れない、見てなかったかも知れない、さながら未確認飛行物体のようですね。

  4. このお作品を読み終え、私なら、どんな話が書けるだろう…? そんなことを想像してみました。とても楽しく、柔らかな想像でした。

  5. とてもよかった。

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