すべて

嘘みたいな本当の話
10年の間
止まない雪があった
 
愛を知るにはまだ早すぎたその雪は
たくさん降ることもなく
雪だるまなんかを作るには不向きで
だけどただただ降り続けるので
きれいだなと思った
 
 
わたしは
その雪を掬い上げては
家の中に戻り
暖炉の前に持って行った
暖かい匂いを教えてあげたかった
そしてその匂いを覚えているうちに
溶かしてあげたかった
でも降り止むことのないきみの
すべてを掬い上げることはできなかった
 
 
しばらくしてわたしは
見て見ぬふりをしてみたり
ほったらかしにして街に下りたり
気が向いた時だけ掬って遊んでみたりした
雪は嫌がりもせず
また溶けることもなく
何年もずっとそこにいた
 
 
 
10年目のある日
わたしは例の気まぐれで
また触れてみた
深い理由はなかった
懐かしさとか好奇心ぐらい
わたしの知らない間に
たくさんの人に踏み固められたきみは
やさしくやさしく撫でるうちに
すべて溶けてなくなった
春の雪解けのようだった

雪の下には
色とりどりの花が咲いていた
わたしの知らない花もたくさんあった
愛を知らなかったのはわたしの方だった

待ち侘びていたんだよね
ごめんね
ごめんね
 
 
 
ここまでやっと来れたから
もっともっと咲いて
咲き誇ればいい
踏み場がなくて歩きにくいだろうからとか
摘んでは咲いての繰り返しが迷惑じゃないかとか
そんなのどうでもいいよ
きみはきみの好きなようにやりなよ
10年分の想いを教えてよ
いつかその匂いが空に還っていくまで
すべてこの身体に刻んでよ

きみが溶けて流した涙が大地に根付いて芽吹く花のすべてがまた雪のように舞い落ちるまで
一緒にいようよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

投稿者

大阪府

コメント

  1. 雪は、淡々と降りつつ、積もりつつ、柔らかな花の命を育てていたのですね。大切なものは、失って初めて気づくのかもしれません。切ない余韻が残りました。

  2. 素敵な詩ですね
    泣きました

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