シャキ、シャキ音頭
その日は休日だった。俺は自由について考えていた
この世の中は尺度で一杯だ
背が高い低い。容姿が美しい醜い。頭が良い悪い。運動が出来る出来ない。性格が明るい暗い。金持ちと貧乏 ・・・。
うんざりだった。だがそうやって心は尺度に絡み取られていく
だから俺にとって自由とは尺度からの自由であった
それはよく言われているように心の問題だ
だから俺は集中力を高める必要があった。ヨガ道場に行くことにした。
道場に行くと女指導員は俺の顔を見るなり言った
「あなたね、運が逃げていきそうな顔してるわ、不運顔ね。でも大丈夫よ、ここで3ヶ月真面目にトレーニングしたらきっと顔つきも変わって運気は良くなるわ」
まさに女指導員の言うとおりだった。俺は運に恵まれてはいなかった。だがそれを言い当てられたことよりも、
ここでも運の善し悪しなどという尺度が明示されたことに俺はショックを受けた。
尺度からは逃れられないのだ
俺は一言も発することなくきびすを返し道場を後にした
女指導員もあきれた顔を浮かべながら、引き留めはしなかった
帰り道、歩きながらまだ尺度について考えていた
社会は、無数の尺度が蜘蛛の糸のように張り巡らされている
それを避けることは不可能だ。社会を歩けば歩くほど糸はまとわりついてくる。
そうだ、ハサミで切ってしまえばいい。糸を。そして縛られることのない自由へ
道沿いのコンビニでハサミを買った
翌日俺はそのハサミをビニールカバーに納め、尻ポケットに突っ込んで会社に出勤した
何故か気分はウキウキしていた
俺は「尺度風紀委員」となっていた
「あの人イケメンね」
女子の甲高い声が響いた
ハサミを抜き上げ、すっ飛んで行く俺。恐怖を浮かべる女。
俺は言った「あなたは尺度に汚染されています。私が解放します!」
俺の超高感度の目には、女の胴体は赤い糸でぐるぐると巻かれていて、締め付けられているのが見えた。赤い胴体。不自由の象徴。俺は躊躇することなく腹部からハサミを入れ、胸部にかけて一気に切り裂いた。赤い糸が床に散らばった。
シャキ、シャキ、シャキーン!
「あいつ頭悪すぎるんだよ」
上役が部下を値踏みする声に俺の体は反応した。ハサミを高く突き上げた俺は、上役の前に立っていた。男の禿げて光った頭を黄色い糸を束ねた立派な鉢巻きが締め付けている。俺は言った「あなたは尺度に汚染されています。私が解放します!」俺は顔面にハサミを突きつけ、そのままの勢いで太い黄色い輪を挟んだ。両手で力一杯に刃を交差させた。
シャキ、、、シャキ、、シャキーン!
「あいつチビだからな」
休憩室から漏れる同僚らの声。半開きのドアを蹴って飛び込む。目を丸くする奴ら。彼らに絡みついた灰色の糸。それは鎧のように体を固く締め付けていた。俺は叫んだ「君たちは尺度に汚染されています。私が解放します!」呪縛の象徴、灰色の服を次から次へと真二つに切り裂き、ゴミ箱に放り投げ蓋をした。
シャキ、シャキ、シャキーン!
宙に突き上げたハサミはLED蛍光灯の光を反射して鋭く光った
俺の気分は高揚し、いつしか口笛を吹いていた
皆が俺を遠巻きに見つめているのに気づいた
課長がおそるおそる俺に近づいて来た
「君もだいぶ疲れているようだな、大丈夫か?うちを担当している産業医の美人のカウンセラーを知っているだろう。明日来るから診てもらえよ」
またもや尺度だ。美醜。俺のアラームは鳴り、見逃すこと無く検知した。反射的に課長の鼻先にハサミを突き出した。言葉と一緒に口から2枚の舌がうごめいている。赤い舌の上の平らな黒い糸、呪縛の象徴。口腔の奥までハサミを突っ込み、根本からーーシャキーン!悲鳴が上がる。だが俺は冷静だった。舌は大丈夫さ。その場で辞表を書くと「さよなら」と告げて会社を去った。
帰り道、興奮した俺は右手に持ったハサミを頭上高く突き上げ、空を何度も切った
そしてその場で即興で作った「シャキ、シャキ音頭」を歌いながら踊った。
「シャキ、シャキ音頭」
♪シャキ、シャキ、シャキーン、
シャッ、キン、キン!
尺度、コンパス、皆殺し
おれも あんたも 戦士なら
山超へ 海越へ 空超へて
旅は続くよ 何処までも♪
♪シャキ、シャキ、シャキーン、
シャッ、キン、キン!
息すりゃ絡む蜘蛛の糸
網にかかりゃ お仕舞いよ♪
♪シャキ、シャキ、シャキーン、
シャッ、キン、キン!
尺度、コンパス、ぶった切り
山越へ 海越へ 空超へて
旅は続くよ 何処までも
自由求めて 何処までも
シャキーン、シャキーン、シャキーンとね♪
夕暮れの街を吹き抜ける秋の風も今の俺には冷たくはなかった。
だが冷ややかな視線を浴びせられていることは分かった
人々は俺から距離をとった。
俺はハサミを高く突き上げた
背中に何かを感じた。一匹の蜘蛛が肩によじ登り、俺の右腕を糸でぐるぐる巻きにして行く。
突き上げたハサミは腕ごとみるみると蜘蛛の糸で固く巻かれていった。
俺は涙声になりながら叫んでいた。
「あなたたちは、尺度に汚染されてい、ま、、す。 わ、た、、し、、、が、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」
俺の声は途切れた。
ハサミを持った右腕を蜘蛛の糸に絡み取られた俺は、歩道に膝をついてうずくまった。
俺の左手がズボンの左ポケットに滑り込み、隠し持っていた黄色いカッターナイフを握った。
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最後まで読んでいただき有り難うございます。
この詩は、このサイトの投稿者の方の大変ユニークな作風を拝借しております。
すいません、お許しを。
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