恋人
夜更けに君が静かに泣いている
僕は思い出す
君が語らぬ過去を見せる時
僕も同じものを見たと思い出すのだ
何万キロ離れた空の下
遠い遠い封印をあけてみよう
擦れ違うこともなく
同じ時間に流れることもなく
触れ合うことも
もはや語り合うこともできない
僕と君は恋人
入り組んだこの宇宙の
ある一点で交わり
今はその悲しい温もりの残滓
落ちてゆく心さえも
恋人
冬の眩しい空気に確かにあった
君の狂気を思う
咳込みながら夢を呪い
壊れていく体を呪う
なのに永遠を説くのだ
その側でただ
褪せていく色を
手のひらに掬おうと
永遠という文様に囚われた
僕の狂気を語ろうか
夜の泣き声
押し殺して
いくら手を痙攣させても
漆黒になにも見えず
ただ聞こえる泣き声
君が泣いている
何十年、何百年、何千年も
ほほを伝わり
僕を濡らす君の涙
今
凍河の舟に誘われ
二人の身体は氷点下の炎で
違う宇宙を過ごす双子の体温
闇に浮かび
きつく抱きしめようとも
体はもはや動かず
交われはしない
恋人
君と僕は似過ぎていた
多くの死に触れ過ぎていた
君と僕は石の目を持ち
石のくちびるで
宇宙なんてとキスをして
石の言葉で
さよならと
きっと君は僕の
僕は君の死に神になったんだ
今や触れられぬ君
熱を無くした君
今や触れられぬ僕
熱を無くした
.
.
.
.
永遠の前
あなたは身体を投げ出し
消えゆくものを全て思いのままに
と、言う
今、薄闇にかすかに流れる鼓動の調べ
発光するかのような生命の熱は
やがて去りゆくものなのだ
と、言う
触れうるものをいだく
それのみである我が腕は
慊らず永遠を欲っす
しかしあなたは寂しげに微笑み
わたしはもうじき永遠にあなたをいだき
光の中それだけが全てになるわ
と、言う
でもあなたには今この身体に触れ刻みつけて欲しいだけです
と、言う
あなたの永遠はいらないと
あなたに永遠はいらないと
僕に信仰があったならば
あなたの瞳に浮かぶ色を解し
あなたの言う永遠を手にいれられるのかもしれない
今僕は手を伸ばすことも恐れ躊躇する弱き大人
唯一の光を
美を
失うという現実に立つことも出来ない
外は雨
しめった空気は何処かの隙間より流れ込み
肌にしんしんと染みる
僕にはこの瞬間が永遠と思う
が、
あなたは目を閉じ
あと数時間すれば朝が来て
まだ永遠は来ないわ
と、言う
コメント
うわあぁぁぁー!
からだごと搾られます。
『たのしいお墓』でしたっけタイトル、あの詩を思い出しました。
何度も繰り返し無くすんだろうと想像します。
“ 落ちてゆく心さえも
恋人 ”
すごくいいなって…。
全部良いのですけれど。
潤いのある詩だなぁ、と感じます。
この詩に現れ出てくる ふたりの熱量が、素的に交換している感じ。でも、熱を無くして、触れられないというふたり。この緊張感が、ヒシヒシと迫って来ます。
きっと君は僕の
僕は君の死に神になったんだ
そして、ここが特に好きです。
堀辰雄さんの「風立ちぬ」が頭に浮かびました。究極の愛を二人で実現するつもりだったのに、互いを苦しめる。
この瞬間が永遠、瞬間的永遠を積み重ねて行くのですね。