
人間であった猫
この猫はかつて人間であった
たまに人間であった頃に思いを馳せ
人間らしい座り方をしてみる
この猫はかつて孤独な青年であった
秋の夜のお月様だけが
たったひとりの友人のように
彼はひとつしかない窓から
お月様が昇るのを待っていた
そして
すぐ下の瓦屋根にも
お月様を待つ者がいた
彼はその猫の
琥珀のような瞳と
かっちり目を合わせ
猫の妖術にはまった
彼は猫になった
一ト月後
猫になった彼は
琥珀のような瞳の猫に
博物館の塀の上で再会したが
その猫はたいそう驚いた様子で
「あんた、まだその姿でおるんかい
月が沈んだら
術は解けるようにしてやったさかい
ひと晩で人間に戻れたやろ
あんた、そないに人間いややったんか」
あれから十二年経つが
彼はまだ猫のままだ
たまに人間らしい座り方をし
人間だった頃に思いを馳せる
窮屈な心を思い出し
煮干しのはらわたの如き
苦さを味わうのだ
人間らしい座り方は
猫になった彼には
すぐに疲れるが
心に蘇る苦味は
美酒の如きもので
彼が商店街の路地裏で
また人間らしく座り
苦さを味わっていると
貴金属店の店番のお婆さんが
通り過ぎがてら
「猫は猫らしく座りなはれ」
彼は愉快だった
自分は猫なのか
かつて人間であった猫なのか
もはやどちらでも
コメント
写真がまず、すばらしい。
表情に人間味を感じて、何とも味わい深い詩が引き立っています。
「窮屈な心を思い出し 煮干しのはらわたの如き 苦さを味わうのだ」という表現が渋くて素敵です。
ほんと、写真の子、めっちゃ人間ですね。
2連目とても好きです。
猫と月が。
@汀尋(ていじん)
様
この猫を見掛け、思わず写真を撮りました。接近しても動じず。渋いのお言葉、ありがとうございます!煮干しは味に、渋さもありますね。
@たちばなまこと
様
嬉しいコメント、ありがとうございます。
この猫を見てから、頭の中は詩の世界でいっぱいになりました。
月は誰もに寄り添ってくれますよね。太陽は強すぎる (でも、晴天は気持ちも晴れ晴れします)。
世の中の猫はすべてもとは人間で猫であることを選んだ人たちなのかなと思ったり思わなかったり(笑
写真の猫しゃん。この出会いに乾杯です。
詩が、この猫しゃんとの出会いを生かしてありますね。
@たかぼ
様
コメントありがとうございます。
そして世の中の人間にも、かつての猫がちらほらいるかもしれません。
@こしごえ
様
コメントありがとうございます。
この猫が座っていなければ、この詩はありませんものね。猫さんに感謝です。