産まれた――『ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる』より
僕の曾お婆さんは野村志津といい
北陸のオバマに産まれた
とってもとってもきれいな頃
荒海を越えた冷たい大地
黒竜江の強風あびる寒村
命の限りの異国の開拓民となった
故国の人と結婚し
三人の命をさずかり
戦争に負けた民となったのは三〇歳の頃
夫は行方不明 隠れて逃げて
飢えと寒さに苦しんで
二人の子は死に
一人は置き去りにし
涸れた涙を身体に塗りつけた
殺された心を助けてくれたのは
セキ・シャンチさん
荒地の優しい眼差しに結ばれて
子を二人産み土地の人となった
五八歳になって大病を患い
故国に戻りたい志津さん
息子は長い長い距離をお母さんに付き添った
二つの血をもつ僕のお爺さんだ
曾お婆さんは家族と離され
三八年ぶりにオバマと海沿いの
マイヅルの病院で
亡くなった、ひとりきり
僕のお爺さんのお嫁さんは五人目に
初めて男の子を産んだ
一九八六年黒竜江省富源村
僕のお父さん、セキ・レイの誕生だ
貧しい村に育った僕のお父さんは
九歳の時、お婆さんが産まれ育った
山と平原と海を隔てた国に一家で渡った
セキ・レイは野村達雄になった
達雄は小学校でゲームに嵌まった
自分の出自を明かし
新しい言葉に慣れ
新しい友達を作った
達雄もしくはレイはゲームを楽しんだ
中学に入ると
クリエーターをめざし
ゲームと人を結びつけようと思った
二つの名と血が海をはさみ
一人一人を認め合おうとした
お父さんは若くして自覚した
曾お婆さんの苦しみの名から
流れ去った地の痛みから少しでも
みんなが良い方向に向かってほしいと
自ら大きな海を渡った
志津さんとは逆の海
レイとして産まれ育った地と逆の大陸
シリコンバレーでの共同作業
お父さんは振り返った
お婆さんの志津さんのこと
二つの国の血と地のこと
区別や差別のこと
戦争や核兵器は絶対駄目だ
国境のないゲームを考えた
内に引きこもる人々を
外に連れ出すため
レイでも達雄でもあるお父さんは
ポケモンGOを産んだ
世界中の人々を外に連れ出し
その地を見させようとした
そんな父から産まれたもう一つのゲームが
僕だ
※参考資料
・NHK映像の世紀バタフライエフェクト「二つの敗戦国 日本660万人の孤独」(二〇二四年十一月十八日初回放送。二〇二五年七月七日再放送)
・野村達雄『ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる』(二〇一七年七月小学館集英社プロダクション初版第一刷発行)二〇二五年四月一六日インターネット公開版
コメント
こんばんは。
先日の朗読、圧倒されました。
この作品もいつか聴けるといいなと思いました。