それは静かな海でした

 それは静かな海でした。子供たちが波打ち際を歩いている、その後ろで見守りながら、ゆっくりゆっくりとしたがっていくお父さんとお母さん。その瞳のなかに、子供たちはあって、優しく守られているのかもしれず、そうではないのかもしれない……そんな朝の光景なのです。

 それは静かな海でした。ひどく肌が焼けている恋人たちが、遠く水平線のむこうを走っていくヨットめがけて、おおい、と声をあげる。その響きがまたたく間に天にとどいて、そこにいる神様がおごそかに思いを返す。そんな昼の光景なのです。

 それは静かな海でした。漁師たちが荒ぶる海に出かけていく、その都度、網を手繰り寄せ、手繰り寄せ、それで魚を追い込もうとする……もちろん、たくさんの魚が獲れるのでしょう。寝静まった海は、まだ夜明けの光に照らされないまま、ひとときの安らぎをまっている。そんな夜の光景なのです。。

 ここから歩いていくとき、あなたは教えないように。誰にも教えないように。ここから走っていくとき、あなたは転ばないように、絶対に転ばないように。

 海辺に咲くハマナスの花は、まだその季節ではなく、たったひとつ貝殻が落ちている。貝殻はすべての歌を歌い終えて、遠い者たちのことを待っている……安らぎの夕べなのです。

投稿者

宮城県

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