焔(ほむら)

坂は与楽寺に沿って
なだらかに下っていく
途中細い路地が分かれている
雑木林の残る寂しい道だ。

詩人は六畳一間の古い部屋に閑居し
この雑木林を眺めていたか。

銭湯の一番風呂に入ったり
ちいさな鰻屋で日本酒を飲んだり
時々大学で講義をしたり

ビート詩を書いていた
晩年は
田端界隈を舞台に抒情詩を書きつつ
情人とふたりで行方をくらます
言葉そのものになる。

ある日
詩人は情人から古い文机を貰った
気に入ったのだという。

追憶の匂いが染み込んだこの机で
彼の悔いはどこを彷徨ったろう
ふらりと見せる胆力
還暦を過ぎても
焔となって下半身に蹲っていた
言葉に情人を重ねてみた。

与楽寺の石塀は
当時のままだ
今日は坂を上がっていく
幽霊坂という。

崖上から操車場が見下ろせた
寒風が私の無常をくすぐった。

投稿者

東京都

コメント

  1. 芥川、室生、萩原と思い浮かんだけれど、どれも違うかな。ビートなら諏訪優? うーん、それはともかく、長谷川さんの作品はいつも長谷川さんならではの視点で風景が切り取られていて、いつも感心させられます。無常をくすぐる、って良い表現だなあ。

  2. 俺もこんな大人な男の詩を書いてみたいなぁ
    バカだから無理か

  3. トノモトショウさん
    諏訪優です。若干、フィクションの部分も加えましたが、諏訪さんのことを書いてみました。晩年、彼は田端に住み、抒情的な詩を書いていました。田端は、かつて、芥川、室生、萩原も住んでいましたね。

  4. あああさん
    私も、こんな鰻屋で、ぼそぼそと日本酒を呑んでみたい…。普段は、安焼酎を呑んでいます(飲んべえです)。

  5. ある人(ある詩人)に思いを馳せながら、街を歩く。そういう風景が詩になる、素敵だなぁ。
    佐野元春さんのこんな記事を見つけました。
    https://www.moto.co.jp/cover/now_and_then/Vol06/bohemian/bohemian.htm

  6. あぶくもさん
    佐野元春さんの記事、ありがとうございました。そうなんです。諏訪さんは佐野さんと交流がありました。諏訪さんのエッセイ集(『東京風人日記』)にも、佐野さんの記述があります。佐野元春は優れたビート詩人だと。お墓が法昌寺にあることを初めて知りました。訪ねてみたいと思っています。

  7. なんで素晴らしい、コンコンとした生活
    その焔に影はなく
    生活の中全体に華と陰がある

  8. 那津na2さん
    コンコンとした生活、という表現、いいなあと思いました。彼は、たしかにそんな閑居生活だったように思います。男も、女も、華と陰の狭間で迷っているのでしょう。

  9. 最後の一行が胸を突きます。人生のすべてが凝縮されているような。

  10. 佐藤宏さん
    無常、という言葉を、最近よく考えます。人の世の移りやすいこと。命のはかないこと。人は、そのはかない時間の中を生きているのだな、…と。

  11. 渋くて素敵な詩ですね。ビート詩大好きなので、共鳴する世界観でした。
    長谷川さんの街の描写、いつも興味深く楽しませていただいています。街の切り取り方も、いつも「ここ行ってみたい」と感じる魅力にあふれた街ですね。

  12. ザイチさん
    ビート・ジェネレーションの詩人諸氏とは世代が異なりますが、アレン・ギンズバーグ、ゲーリー・スナイダーの詩は読んできました。街の散策詩が好きで、街を題材にした詩をよく書きます。そんなふうに読んでくださるととても嬉しいです。
    ザイチさんの、詩と、音楽と、映像も、現代のビートニクかもしれませんね。

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