赤紫

懺悔の代わり
聲を摘んで
崖上から
夕闇の陰を勘ぐってみた。

物語は
とうの昔に諦めたはずだが
水に似た残影は揺蕩っている
苦い情味も消えない
Sは
詩を書けと責めたてる
始まりさえないのに
言葉など口に出せるか。

この世は
赤紫であるらしい
自分の享年を
勝手に定め
この世の端っこから
意味を削っていく
それでも
Mは早く詩を書いてと肌を晒す。

ようやく言葉を発した
とたん
夕闇は暗転した
崖を下り
奇妙な街の咆哮を聴く
夕でも嘘でも
現実でもない日々を
肉感に刻む。

懺悔の代わり
聲を葬って
私は一冊の詩集の中に
そっくり収まった。

投稿者

東京都

コメント

  1. 不思議な磁力を感じる詩でした。自分が最初に詩を認識した時に同じような、近い感触がありました。

  2. timoleonさん
    磁力を感じてもらえたなら嬉しいです。どうぞ、自由な解釈でお読みになってください。

  3. 別に詩なんて書かなくてもいいのに、何かに追い立てられるように詩を書いてしまうものですね。関係ないですが、うちの妻は「詩なんて書いてないで、早く芥川賞でも取ったら?」と無茶苦茶なことを言ってきます。

  4. (恋とかに)落とされちゃいそうな少し怖いスマートさ。
    “Mは早く詩を書いてと肌を晒す。”
    かっこいいです。

  5. トノモトショウさん
    そうなんです。何かに追い立てられるように、責められるように、詩を書いています。締め切りかもしれませんし、誰かの脅しかもしれませんし、自分自身への呪い?かもしれない…。

  6. たちばなまこと/mさん
    「物語」という言葉をキーワードにしてイメージを膨らませていきました。作中の「詩」は比喩ですので、好きに解釈していただいて構いません。たちばなさん風味の解読、嬉しく思いました。

  7. うまく言えないけど、すごく雰囲気を感じる詩で没入できました。
    随所にハッとする表現にも出会い、最後の締め方も素敵でした。

  8. あぶくもさん
    実験作?のような感じで書いてみました。…実は、作者自身も作品をよく把握しておりません。(汗) 「物語」からイメージを膨らませたら、このような詩になりました。

  9. 現実から剥離しそうになると、このような状態になるのかもしれないと感じます。
    最後の連、書き終わると落ち着く感じに、とても共感を覚えました。

  10. ザイチさん
    現実と、非現実の、境ぐらいのところかもしれませんね。ともあれ、この世は赤紫であります。最後は詩集の中に収まりました。

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