シースルー

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詩で名づけられた人々は詩を伝言する。 いつか死に囚われた後で。

伝言されていく詩は僕たちのダミーだった。その裏側で僕と彼女は奪い合いのゲームを始めた。心を奪い合う、ダメージを賭けたゲームだった。カムフラージュされた言葉遊びを隠れ蓑にして、僕らは仕掛けあった。互いに奪おうと目論んだ。一つの国家が終わろうとする合間でチェスに耽る人たちのように。

非婚の詩の死が無根の事実に濾過されて廃炉となる。詩が親衛隊の制服を纏って捕えに来る。征服された遠大な野望はたちまち偽装に変貌させられる。「あなたは何?」。彼方から聞こえてくるようさ、数多のこじつけの犠牲を必要とする彼女には。僕の阿諛が静止する時、隠喩の兵士は多くはなかった。

計画になかったオーヴァードーズ、あっけないルーズな終局は僕らの奪い合うゲームをナチュラルな憎悪にスパイラルさせる。効率的に僕に無律な戦慄を与えてくれ。彼女の罪状はシースルーによる魂への徘徊。溺死する魂への効毒作用は単極性の耽溺だった。彼女のミッションが僕のアクションの動機を無力な始点に封じる。

「何者かになれるの?」。彼女が無垢に尋ねた瞬間に互いのアディクションがフィクションに消えた。このイメージで消えていきたいんだ、不可逆的な被虐のダメージまで。初めから僕のギルトは彼女のルートになかったと知る。「最後に何を知るの?」。直後に背後から些細に刺される類語探しだった。

手移しで吸いあう二人の煙草の不安な煙とコアントローが彼女の吐露だけを狡猾にする。クレヴァーなラヴァー。ダウンするオウンゴール。韻を踏む地雷が近い僕たちのトーチカのトートロジー。週末のゲシュタポのように言葉をスパイしあう。試し合う。やめにしたいな、こんな自爆を誘発し合うゲームの結末は見たくないんだ

誰も僕らの実在性を信じちゃいない。もうたくさんだ、ボットのように言葉を吐く機械性。ボルタレンの衰弱で駄目にし合おうよ、名づけられた匿名の思想を。レスリンの低体温で傷つけ合おう、名指しのリアリティー。「終わり合うのね」。終わりで躓くさ、僕と彼女、互いに排他する求め合いは。明日には出会えやしない、結末が見えたから。

婚約しあった詩は僕たちの非業の最期だった。僕と彼女の奪い合いのゲームは沈黙しようとする。ルージュで滲んだ残骸の彼女へのオマージュは遂に僕が仕掛けに堕ちた。彼女の根拠地中枢を奪おうと目論んだ僕の試みはチェスに耽る人たちの国のように唐突に陥落した。魂を争奪するダメージを賭けたゲームがいま終わる。

この密かなタイピングの響き。混沌はもうたくさんだ。 僕自身の声に出口はないのか。

合図をくれ。君を待つ。

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投稿者

徳島県

コメント

  1. 風で時折ゆらぐオーガンジーのヴェール越しに詩(死)のやりとりを見ているようでした。
    リルさんの詩は泉のように湧き出るのでしょうか。

  2. たちまこさん、ありがとうございます。これは詩作が絶好調すぎる頃に書いたものです。なにを書いても自分の世界が脚本のある映像みたいになってました。今は音楽の方にその能力が奪われてます。

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