冬果て

季節性の沈鬱が、指の隙間をぬう
バスに乗るのがへたくそで、いつまで経っても目的地に辿り着けないでいる
少女だったあたしが、入水してゆく
あの人への想いを、告げられないままで
潮水に濡れた白いワンピースが、黄ばんでいる
「美しくいきられませんでしたごめんなさい」
口癖みたいに繰り返された遺言
冷たい海水
止まない雪
指先にこびりついたカレーヌードルの匂い
最後の晩餐
下らない死体ごっこ
右側頭葉が痛んで、路肩に倒れ込む
まだ誰にも踏み潰されていない雪が、あたしの受け皿
少女だったあたしが、沈んでゆく、深く、淋しい冬の底へ
ワンピースが、北風と泳ぐ
冬至を追い越しても、太陽は寒波に震えたままで

脳裏に焼き付いたあの人の温もり
ずんずん雪は降ってきて、あたしを覆う、あたしを殺す
「美しくいきられませんでしたごめんなさい」
音声を付帯しない声で告げる、誰かへの懺悔
誰への 誰かへの
コルチ器の奥 鴎と戯れる、少女だったあたし
惑乱していく思考
霞んでゆく現実
熱い珈琲が、飲みたい それから少し、眠りたい
あたしの脳裏を縦横無尽に駆け抜ける少女
まだ何も知らない少女
まだ美しいだけの少女
少女 沈んでゆく

愛情の味を教えてくれないSiri
あの人の電話番号を覚えていないiphone
イヤフォンから流れる気持ちいいだけの音楽
右手を温めるコンビニ珈琲
眠れないまま彷徨うあたし
あの人の夢すらみれないあたし
国道を行くトラックのヘッドライトが、眩しい
同時にそれが、とても悔しい
「美しくいきられませんでしたごめんなさい」
白く色付く溜息
あの人への熱量ばかり、増してゆく
海岸線で満ちる鎮魂歌
優しいリズムを刻む潮騒
冷たくなってゆく少女の両脚
走り続ける路線バス
降り止まない雪
交錯する、過去と心象、それから現実
延髄の中、混濁した全部
どこへも辿り着けないあたしを、攫いに来てよ

投稿者

岩手県

コメント

  1. 美しく生きられませんでした。少なくともここまでは。
    刺さりました…。

  2. BENI様

    コメントありがとうございます。

    そうですね‥ラストもう少しうまく持っていけたらよかったのですが‥
    次回ご期待下さい!!

    ありがとうございました☆

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