虹のすべて

ひとは
母音だけで会話するときに
かならずしも
自分に正直だとはかぎらない
相手に誠実だともかぎらない

水色のキャンディが
口の中で溶けていく速さで
きみはやがて
いろいろなことを
約束された手続きのように忘れていくだろう

射抜かれる明け方
黒い文字の果てしない羅列に
息をのむアンドロメダ
きのう羊を殺した野蛮な道具で
明日は畑を耕して種を蒔く

太陽に手をかざし
まぶしそうに目を細めながら
手を振る遠い人影
きみはしずかに
祈りの言葉をつぶやくだろう

母音は光に似ている
光は液体に似ている
液体は時間に似ている
すべては流れていくという一点において
共通のものであると断言する

鎖骨の窪みにたまった汗が
森の奥の誰も知らない泉みたいで
人肌のぬくもりを思い出させる
きみはそこに
水色のキャンディを投げ込むだろう

波紋が広がって響きあう同心円の
うすぐらい明け方に
死んだ道路の上で宇宙が近づく
脱ぎ捨てて裸になって
さあ母音だけで会話しよう

投稿者

大阪府

コメント

  1. 大覚さんの詩はほんとうの意味で優しいなぁ、と感じます。この詩はその優しさなどがこころに流れてくる感じがたまりません。

  2. わたしが感じるカッコ良さと洗練の極みのような詩ですね。
    正直でも誠実でもなかっただろうけど、母音だけの会話で全てを伝えられていると錯覚していた頃があり、それを思い出しながら、すべては流れていくことを知った今、これからの母音の会話について考え込んでしまった。嗚呼、良い時間だ。

  3. 最近、初孫娘が生まれたのですが、まだ生後2ヶ月ほどです。ようやく言葉を発しようとする意欲が湧いてきたようで、いわゆる喃語のような音声を発します。私の娘である母親の顔をじっと見つめて母音だけで会話をしようとするのです(娘はイギリス在住なのでLINEで動画が送られてくるのです)。母音だけの会話。今の私にはその言葉から連想されるのはこの孫娘のことでした。そう思うとこの詩から光り輝く希望に満ちた印象を受けるのです。

  4. こしごえさん
    優しい、というのはけっこう意外な感じでした。
    優しいのかもしれませんね。たしかに。
    リアルでのぼくは、確かに優しい人間だと思います(どちらかと言えば)。

  5. たかぼさん
    ぼくも、もはや孫がいてもおかしくない年齢になりました。孫の可愛らしさは、自分の子ども以上なんでしょうね。喃語の愛おしさ、そして美しさ、それは限りある時間の中にあるからこそのものですね。

  6. あぶくもさん
    洗練されているかどうかはさておき(笑)。
    母音だけの会話、人生の中でどれだけあるのでしょうね。自分の年齢を考えると、そんなことも考えたりします。

  7. 母音だけの会話のことを、わたしも昔詩に書いたことがあったのを思い出しました。
    母音も流れていくという概念が、歌みたいでいいなと思いました。

    「〜だろう」と「〜する」とか「〜しよう」が、心地良い言い切りと程よく残された余白に置いてかれるのに引っ張られるみたいな、うまく説明できないんですがとても好きな詩です!

  8. @イチカワナツコ さん
    実はこれ、10年近く前に書いたものです。
    たぶんほぼ即興で書いたので、あんまり何にも考えてなかったり・・・(笑)

  9. そっか、こうすればメンションでも「さん」づけできるのね

  10. @大覚アキラ さん
    なんかそういう、ただ垂れ流すままに書いたものが、時にものすごく言葉がシャープで、考えて書いてないのに深くなったり
    するというふしぎ

  11. タイトルからの始まり方、流れていって、からの締め方。
    いちいちすてき。
    野蛮な道具のくだり、痺れました。

  12. @たちばなまこと さん
    野蛮な道具のくだり、あそこはぼくも気に入ってますの◎

  13. @イチカワナツコ さん
    詩が、自分の中にあるときは、作らなくてもできちゃうけど、
    ないときは、作ろうとしても「詩みたいなもの」にしかならないんだよね。
    551のCMみたいな話になっちゃったけど笑

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