エンドロールだけを、ずっと。

ビーチもゲレンデもナイトプールもダンスフロアもレストランも、そういうのぜんぶいらなかった。あたしに必要なのは、きみの声が届く静かな空間だけ。音程、はずしてもいいからその声で歌ってほしかった。小さく、静かに、ささやくみたいに。ギターのチューニングも、すこしぐらい狂っててもよかったんだ。窓の外に降るのは雨なのか、星なのか、それとも雪なのか、目をとじてしまえばどれでも同じことだね。いつか見た景色の話とか、いつか観た映画の話とか、いつか行ったライブの話とか、そういうのもぜんぶいらない。そのうち行こうねって約束してたバーの話とか、あたしが連れてってほしかったグランピングの話とか、きみが食べてみたいって言ってたチリドッグの話とか、そういうのもぜんぶいらない。閉じた瞼の奥に降るのは、雨なのか、星なのか、それとも雪なのか、わからないけど時間だけがゆっくりと流れていく。ゆっくりと、ゆっくりと終わりに向かって流れていく。カップの中のコーヒーはすっかり冷めてしまって、乱れたシーツに残った体温も幻みたいに消えてしまって、どこか遠いところで誰かが眠りに落ちていく。それは、あたしなのかもしれない。

投稿者

大阪府

コメント

  1. エンドロールが終わるまでが物語であって、それが永遠に続く限りは終わらない。いや、最近のはエンドロール後にも何かちょっと続いたり、なんだったらNGシーンが挿入されてたり。醍醐味はなんといっても余韻とともに流れる音楽ですよね。

  2. @トノモトショウ さん
    映画館に行くといつも驚くのが、エンドロールが始まるや否やすぐに席を立つ人が思いの外多いこと。音楽も含めてエンドロールがあってこそ、映画って完成すると思うんだけどなあ。よっぽどトイレに行きたいのを我慢していたのか。
    ちなみに、エンドロールがいちばん好きな映画は「ディアハンター」です。

  3. @大覚アキラ さん
    わかります!「カヴァティーナ」良いですよね!

  4. @トノモトショウ さん
    切ないギターの旋律をバックに、希望に満ちていた「あの頃」の映像がフラッシュバックする・・・あの映画は、あのエンドロールも含めて完成された作品になっていると思います。「カヴァティーナ」聴くだけで泣きそうになります。

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