行方
摂氏四十度の斜線
振り向き様に撃ち抜いた左手は
所在なく舞い
忘れ去られた路傍に立ち竦む
まるで半球の水色
緩やかに侵される視界に躓く
幻影
あの人
夏の音
恥じらい
躊躇い
赤い靴
苦い実
ゆらめき
さようなら
まるで静寂の秒針
罪作りな午後を無惨にも埋めていく
拾った心臓の鼓動は
日増しに儚く
僕らを繋ぐ理由などなく
取り残された身体は朽ち果てる
退屈で脆弱な空よ
少しは憎んでもいいか
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.044: Title by 槭水季]
コメント
退屈で脆弱な空よ
少しは憎んでもいいか
という最終連に(特に最終行に)、なぜか私は希望を感じました。なぜかは自分でも分かりませんけど。
詩全体は、静寂と心臓の鼓動などの音楽が奏でられているように感じます。うまく言えないけど、行方の予感のあたたかみ(のなかの不安定な気持ちも)を感じる。そしてこの詩の言霊を感じます。
ハードボイルドなイメイジの宝庫。コーエン兄弟の『バスターのバラード』かと思った。(いつも浮かぶのがコーエン兄弟ですみません)撃った者と撃たれた者のどちらかの、あるいは別の誰かの最終連にだけ表される感情もたまらない。
強烈な夏の日差しは正常な判断能力を奪いますね。見知らぬ人と恋に落ち、そして知らない間に別れていたとか。「拾った心臓の鼓動」を私はそんな風に解釈しました。途中の唄のようなリズムにユーモアを感じました。
一行目に撃ち抜かれ。
あつくて揺らぐ景色、ゆっくりとしているようなバイヤスが効いているような、と考えているうちに詩の一部になってしまったような心地です。
赤い靴が印象的でした、もちろんその言葉の持つ遠近と鮮明なヴィジョンと、別に特別な意味がなくても、なんかの罠なのか?