季節
ぼくは還ろう
蒼白く光る星座が
漆黒の弦楽に導かれて
黄道をゆっくりと巡り
月が幾つもの朔と
潮汐を繰り返すあいだに
遠ざけられた道標を
一つ一つ燃やしながら
かつてぼくは
わらべ唄のなかの
幼い五月の女王様が
微笑みながら差し出してくれた
清々しい風を頬に受けて
恩寵のように
きみに恋をした
夏になると
有頂天のぼくには
太陽から深紅のアーチ形をした
プロミネンスが燃え上がるのが視えた
磁気嵐と強風に
深緑の樹木がざわめき
窓ガラスが音を立てて揺れても
それは季節からの
祝福のしるしだった
秋にぼくの恋は
重力の存在におののきながら
くるくると螺旋を描いて
一枚のポプラの葉っぱと一緒に
落ちて行った後
少しのあいだ風に吹かれて
カサコソと地を這ったりした
ぼくのかなしみは
素粒子にまで分解され
打ち放しコンクリート壁の
表面に散りばめられて
固まったまま
蔓草に覆われていった
冬を迎えた宇宙に
しんしんと雪が降り積もる
ぼくは白い全天恒星図を壁に貼り
黒い光を放つ中心の星を目指し
片手に松明をかかげて
暗い地下室の階段を降りて行った
そして地の底を流れる
無秩序の銀河に足を踏み入れた
もの想いに耽る
孤独な地球の影が
月の音楽を誘いながら
永遠のなかで一回転する
時計の針に堕ちてゆく
放埓に飛び回る
鳥達
その時 ぼくの耳に
遠雷のような
架空の爆音が響く
道標が
一つまた一つと
溶けていく
そうやって燃えて
溶けてしまったぼくは
あの幼い五月の女王様が差し出す
清々しい風の季節に
還って行く
なつかしい
きみのもとへ
還って行く
コメント
詩に恋をする。
これはきっとそんな感覚。
そうか、ぼくも恋を繰り返してるんだなって、この星に恋煩いで。
それは、とっても愛おしくて、ぎゅってしたくて、みつめていたくて。
刹那の寂しさはあれど、繰り返し還ってくると、約束があるのならば、永遠に幸せは訪れてくれるんだって。
自身の生きる愚かしさに、それでも、と思うことができました。
ありがとうございます。
ぺけねこさん、コメントどうも^^。詩に恋をするというのはいいですね。
詩から季節は巡り、いろいろあって、また恋する詩に還って行くこと。
ありがとうございました。
とても美しい詩ですね!
「遠ざけられた道標を 一つ一つ燃やしながら」
この部分が季節の移ろいとなって最後の連にリンクしながら、還っていく描写が素晴らしいと感じました。
めぐる季節、恋の切なさ…感覚的に響いて心を揺らしますね。
ザイチさん、コメントありがとうございます^^。
美しいと言っていただいて、自分ではあまり思っていなかったことなので、嬉しく思いました。
またよろしくお願いいたします。