木蓮の蕾

「持っているものを全てここに書きなさい」と言われ 
 何も持っていない俺は そこに下記の散文を書き綴った

死者でもないのに、白い布を顔に被せて闊歩する人々に別れを告げると、俺は繁殖を目的としない交尾を行うため、通称、錯乱町と呼ばれている風俗街へ向かった。動物が交尾をする際は、天敵に襲われないように即座に済ますと云うが、人間は六〇分だの、九〇分だの、給料日だから一二〇分だのと、むだに時間をかけたがる。とくに普段、上司や家族や友人などの顔色を伺いながら生きている人間、つまりは気の小さい人間の交尾は長ったらしく、そのうえ、やたらと態度が大きくなり、終わったのちに女に向かって説教までし始めると云う。そんな人間になってしまったらお終いだ。俺は交尾に人間的なしきたりを持ち込まず、動物に近い状態でありたいと望む。

とはいえ、俺だって説教したくなる時もある。いま目の前にいる女の脇の下にある手術痕と、川に浮かんでいるゴムボールに等しい感触の乳房。顔を化粧で覆って若作りをしているが、高速道路に落ちている軍手をはめているかと思うほど、皮ふが分厚く、深い皺や傷が掘られている手からは、それ相当の年増なのだと、推測などする必要もなく見当がつく。首元を舐めた際には、多めに振った香水のせいで、カメムシが這った後のように苦く、脳にまで擦りこまれた苦味は、この安ホテルを出てからも残るものと思われる。虫を捕食する爬虫類の如くヌメリの効いている女の舌が、俺の身体の上を通っていくが、舌が通った後の俺の身体からは、お前の書く詩はくだらなく、うだつもあがらないのだから、糞便学でも書いたらどうだ、と言わんばかりの臭いがしていた。

ぽとり。

不満はいくつも重なり、ヤニだらけの天井を突き抜けそうではあったが、木蓮の蕾が木から落ちるように、俺は射精し、それから女のへその穴に溜まった精子を眺め、俺にはこれがあったのだと、花が開く時を固唾を飲んで待っていたのである。

投稿者

茨城県

コメント

  1. 衝動と欲望が動物たらしめる瞬間を保ちながら
    人としてのサガを憎んでしまう時があります
    終わった後の説教は、本当に嫌なやってだなぁ

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