シベール
金管楽器を持ち、教会の尖塔にしがみついて、
この女はラッパを吹く、
この女はすでに「処女」ではない、
しかして原子炉はすでに多くの嫡子を生み出している、
我々はヨーロッパの各都市のあざやかな色彩の、
シベール型の核融合炉を知っている、
身籠った女たちの胎内では、すでに核融合が始まっている、
そうであれば我々の文明は、あきらかな、
自在鉤を手に入れた、
山羊の眼のすみやかに読解をなす、オージン、
君たちは金管楽器の製作をする、中世の仕事人、
金属を知り尽くした「知識の人」、
しかしまた決して夢見る「錬金術師」ではない、
「炉」を愛する炎の人、特殊の鎚をふりおろす、
腕力の人、
汗の飛び散る暗い仕事場に、
眼を輝かす、
龍の様に、サチュラスのように、
そしてミューズとともに、ほとばしる火、
金管楽器の先端は、愛する女の乳房をくすぐる、
それはすみやかに太陽光の発電する「黒い肌」、
けずりとり、樹木を焼き払い、水辺を埋め立てて、
我々の愛の電流を創造する場所、
女たちはその子宮の内部から、
清められた電流を生み出す、
ぎっしりとコイルが埋め込まれた、乳房の内部から、
わたしはこの手を差し入れて、
はっきりと感じる、命の電流、ナイーブに感電する、
山羊たちは崖の上に立ち並び、
美しい姿をあらわし、
海洋はすみずみまで、おまえの遺伝子を攪拌する、
洋上に立つ海洋風力発電の巨大な羽は、
徐々に歌う、徐々に波立つ、そしてそこには、
女たちが姿を見せる、そこには立つな、そこは神々の場所、
ラッパを持ち、天に向かい、ラッパを吹く、
まるでアルバートの心臓を欲しがるように、
鋼鉄の羽はギロチンのように、あわよくば、
女の首を欲しがる、
そして花びらの散り敷く、下天のあした、
我々の文明の華々しく発火する、
堕胎する神々の放射する光を浴びて、
女たちは暗緑の平原に立ち、そのラッパを吹く、
愛する核融合の世界に生きる命の動物たちよ、
「わたしは命じる」射精せよと、
多くの生命体はその言葉を感じる、受精せよと、
ラッパの響きは銀色に輝く都市を越えて、リリカ、
リリカの響き、
かすかに響く、真夏の森林のこずえにも、
リリカ・リリカ、小鳥たちにも、与えるだろう、
針葉樹の枝先の、死をも感じるときに、
シベールのひびき。
コメント
坂本さんの作品からは共通して、神の視点から人間世界を俯瞰したような雰囲気が感じられますね。独特です。
コメントありがとうございます。独自のものが出せるように努力したいと思います。気軽にコメントしてください。よろしく。