詩とは、願いだ。
 
微睡みの中、背中から声がする。
目を瞑ったままでも誰だかわかる。
「ああ、夢か」と夢の中で呟く。
なにか質問してるみたいだけど、僕は一言二言返すだけで、そっけない。
どうやらプレステのタイトルについて聞いてるみたいだった。
どれもこれも自分で買って売ったじゃないかと、受け答えしてやる。
そうだっけ、と呑気な返事が返ってくる。
特に特別なことではないのに、なぜだか懐かしく感じるやりとりだった。

こいつとは仲は良くなかった。
まだお互い学生時代の頃は、一緒の部屋に押し込められていてよく喧嘩をしていた。
当然だ。
多感な思春期に同部屋なんて邪魔で仕方がなかっただろう。それでもゲームだけは仲良く遊んでくれたと思う。いつもは邪険に扱われるのに、格闘系のときだけは機嫌よく誘ってきてよく対戦していた。二人でできないときは斜め後ろから画面を覗いていたっけ。
そうしている時間が嬉しくて楽しくて仕方がなかったんだ。

雨音が頬を撫でた。
そこにはいつもの壁と本棚の隙間から覗く夜明け前がある。
微かに声が残る部屋で、夢は憎しみだけではないのだと気づかせてくれた。
必要なものはいつも夢の中にしまってある。
手で掬う側から零れ落ちてしまう夢。
傍からみると探し物をしているようだが、それは夢から醒めたくないがための表現でしかない。
そんなことは不可能だ
こうしている間にも輪郭はぼやけ、霧散し、消えていく
それでも、忘れたくない
残したい
あの時間はあったのだと
夢の言葉から紡ぎだした心を走らせ
願いを詩に託した。

朝が来た。

 

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コメント

  1. 出だしの言い切りと、「必要なものはいつも夢の中にしまってある。」ってとこから、言葉を紡ぎ出して願いを詩に託す。すごくいいですね。

  2. 夢の中で夢を自覚する明晰夢は、深い願望のあらわれなんだそうです。オレもよく夢の中で、この状況を詩にしようと思うんですが、朝が来て忘れることの方が多いです。

  3. @あぶくも

    あぶくもさん、コメントありがとうございます。
    言い切ったりするのってあまりしないなぁ、と思いました。でも今回はそれがマッチしたのかもしれないなと頂いたコメントから気づけました。
    不勉強ではありますが、きっとある分だけのバランスが出てくるのではなかろうかと、想像しました。
    コメントありがとうございました。

  4. @トノモトショウ

    トノモトショウさん、コメントありがとうございます。
    明晰夢、改めて調べました。
    なるほどです、、、必要なものは本当にそれぞれの夢の中にあるのかもしれないですね。
    経験が先で知識が後なのだとしたら、今あるとされる知識なんかよりも、こういったそれぞれの経験があるのならば、そういうことなんだなと、思いました(抽象的すぎてごめんなさい、)
    ぼくも覚えていることは少なくてなんか見たな、くらいの意識しか残らなくて、ほとんど悪夢のような内容だったりするので、でもたまに直後に起きたり、その合間の意識(無意識?)みたいときは、瞬間は鮮明ですけれど、すぐ消えていくのが多いです。
    自覚するのも稀で、きっとなにかが起きたんだと思いました。
    そういうことなら、必要なときにまた夢からやってくるんだと思います。
    コメントありがとうございました。

  5. 一行目が、効いています。「詩とは、願いだ」。タイトルが「夢」。…え? っと、意表を突かれました。そして、ラスト近くの「願いを夢に託した」。構成の妙を想いました。

  6. @長谷川 忍

    長谷川 忍さん、コメントありがとうございます。
    効いていましたか…!
    実は、タイトルと内容がいつもよくわからなくて、考えと悩みの境をいったりきたりな意識があります。
    これだ!と思うときもあれば、これ、かな?というときもあって。
    逆に考えなかったり気分だったり。
    なのでおそれ多くも構成を取り上げてくださったのですが、たまたまな自覚がすごくて。
    などとうじうじしたところでなのです。
    「心に従う」をしたのだと真摯に受けとろうかと思います。
    少し怖いのは内緒です。
    コメントありがとうございました。

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