月の夢想
自転車が崩れていく。やわらかい、昭和のがらくたみたいな音がした。ちゃりんちゃりん。わたしはきみのこと好きだよ。だからちゃんと生きてね。戻っていく、自転車、きみはロボットだった。かわいらしいね。人間よりも動物のほうを酷い目に遭わせたくなる。それくらい残酷なんだ、地球は、宇宙を回って、しゅうしゅうくるくるくりかえし、その星に行ったこともないから、美しいだなんて言える。佐藤、お前、死んでしまうんじゃないか? 死んだことはないけれど、機械が脆い音がする。呼び捨てにしたおぼえなんてないけれど、夕方、夜の直前、送ったメールで薬をまだ飲んでいないことに気づく。わたしの精神が、もうすぐ死んでいく。それを卒業と言う。最後だから、最期だからって悔しいんだろう。自分の人生を否定することもできない。わたしときみのあいだには、価値があるから。
コメント
佐藤、お前、死んでしまうんじゃないか?
このフレーズ、リアルです。
不安なまま、読み進めていきました。
ラストで、少し救われました。
ハッピーエンドなのかどうかは、
わからないけれども。
この世界、いつも震えているようで目が離せない美しさがあります。