曼珠沙華

地の底の
暗い土
うごめいて
生きはじめ
蒼い茎だけすこしのび
鮮烈な緑にたちあがり
葉っぱもつけずにただひたすらに
すっとのび
すいちょくに
天をめざして
血を吸いあげて
うえへ上へ
すっとのびその上に
―季節はずれの花火がちるように
―われてくだけた白無垢人形
朱に染まり
ほそくみだれて
はなばなしくも
さきほこる

曼珠沙華
にしにいっぽん曼珠沙華
ひがしにいっぽん曼珠沙華
かくしてにりんの曼珠沙華
いちめん畑は
あおもきもちゃも
そらもいなほもつちも
濃く紅く
いちめんまっかな
*雲のさけめ

ごほんをよんでた曼珠沙華
ろっこつろっぽん曼珠沙華
しちやしちほんの曼珠沙華
はっぱはのちに曼珠沙華
―むらさきめいた蛾が吸いにくる
おぼろ月から使いびと
ほのおの夜に
むしのね燦燦
しんしんと
死者を迎える
*死人花

地上のびょういん
白いかべ 
鉄のかこい 
白いぬの敷いた
びょうしょうで
ちぇっくのみどり
みにつけた骨と皮のひとがた
とじた白と黒のめ
さんそこきゅうき
せかいとつながる
ちちのなくしたちのいろ

眼前のいちだんの
赤く染まった
花びらたち
艶やかに
なまめいて
あなたのむすこのきみは
のぞきこみ花のなか
地中の涙
天からの滴
身をながれ
―なかでくりぬかれた頭蓋
―だれの、あなたのむすこの
*波うつきみ

白髪尽くして
白檀の
柩焼く冷たい壁に
おぼろに映る
曼・珠・沙・華
うつくしき墨汁の
なのなななのか
天界をのぞむ
彼岸花
やがて白い天上で
地上で艶めきし書と技を
生きんことをねがう
またあいましょう

反歌

おーい雲
檸檬の香り
染まりゆく

投稿者

神奈川県

コメント

  1. グッと読者を引き込んで読ませてしまう詩の力強さを感じました。一連目の朔太郎っぽい感じから既に掴まれていたのかも知れません。

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