ケイトウ

彼のカルシウムが納められて15年になる。
忘れてなどいないだろうが忘れ形見の息子は16歳になり、彼の所作をトレースしたようなかわいいやつだ。
墓参りにはいつもはりきって掃除などをしている。
彼の母にも姉にも、似ている似ていると言われるが、父の記憶が無いので戸惑うと言う。

お隣の立派な石は山を模しており裏面に三十七と彫られている。
側面にその人の両親であろう二人の名も彫られている。
何年かぶりに拝見したところ、お母さまも平成の最後に納められたと記されていた。
八十二と彫られていた。

秋のお彼岸にはお隣の山の麓にケイトウが鮮やかに燃える。
年々地下茎で増えるのか今年は麓を囲むように咲き連ね羽虫たちも賑やかだ。
視線を落とすと玉石が塀の上に積まれていた。
その人たちに会いに来たどなたかのお子さんだろうか。
お父さまだろうか。
あと何回来られのるかなどとこぼしながら、石を積むのだろうか。
上の息子が三十七になったら私は六十六で彼の姉は七十八である。
みんな健康で穏やかな心で長生きして欲しい。
月並みと言うがこんな切なる願いは月並みとは言わない。

お隣の両親にいつか会えたら聞いてみたい。
山がお好きだったのですか。
ケイトウがお好きだったのですか。
この石の山もケイトウもとても美しいです。
またお元気でお会いしましょう。
どうか、お元気で。
                                                                      

投稿者

東京都

コメント

  1. しっとりとした情感というか。悲しみが前面に出ることなく、墓参りの様子を裏からそっと覗いているような。赤い鶏頭のコントラストが鮮やかです。

  2. わたしたちにとってリアルであるとは、どのようなことなのか。感覚していることがリアルであるなら、そのリアルを詩にすることにはどのような意味があらわれるのか。それとも虚構の中にこそ、リアルを感じるべきなのか。揺れて居ます。ゆれている曼殊沙華。

  3. 小説の一節を読むようでいて、それとも違う何だか摩訶不思議な世界を感じました。それはひとえに「私」の視点にあるのかなぁ。すごく何度も何度も読み返してしまった。味わい深いなぁ。

  4. 結局どんなに技巧を凝らそうが、アフォリズムを込めようが、今そこにある感覚の生々しさが詩にあらわれた時ほど、読者に何かが伝わっちゃうんだよなあ、とほんの少し悔しく思いました。系統や傾倒とも掛かってるのかなと思って読むと、また奥深くなる。

  5. 長い年月が流れていますね。
    モノ言わず丸くなってしまう人たち。。。
    ケイトウが花なのに炎のようで、弔っているのに祝っているような
    はぐらかされて微笑んでしまうような感覚、美しく癒されてしまいますね。

  6. 彼の肉体と 別れてからの歳月は、彼の息子の成長の歳月なのだなあ、と思い感じます。
    彼の息子には彼の魂(いのち)が引き継がれている。
    そして、この詩の話者のおだやかな語り口がいいなぁと感じます。もっと言えば、この詩には 彼の魂(いのち)と作者であるたちばなさんの魂(いのち)が融合していると思います。
    すてき

  7. @たかぼ
    さん。過去の悲しみをいつもの荷物と共に持ち歩いている感じです。お隣さんの内2人は既にこの世ではお会いできないけれどいつかお会い出来たら鶏頭のこと伝えたいなと思いました。

  8. @坂本達雄
    さん。ありがとうございます。その揺れがポジティブなものに繋がる揺れだといいなと願います。
    これらがそれぞれの思考の中においてはリアルに在るとおもしろいです。

  9. @あぶくも
    さん。不思議に感じてもらえて嬉しいです。時系列ではなく全て同じ点に居るからかもしれません。死(詩かも)を得たら私たちはどこに行くのでしょうね。

  10. @トノモトショウ
    さん。嬉しいです。もっと悔しがってもらいたいなー。
    ケイトウに着目してくださるとはさすがの読解力です!(毎回書いた方が驚きます。凄いです)もちろん作者は考えてませんでした!
    継投もいいですね。

  11. @ザイチ
    さん。たまに自分のこの時が見せられている幻覚のようなものかと想像することがあります。
    ケイトウ、なんとなくサンバっぽいですよね。鮮やかで楽しい。そして憑依的。

  12. @こしごえ
    さん。魂は出来るだけ穢れないように意識していますがなかなか難しいですね。そんなところ含めて共に子どものこと見ててくれたら嬉しいですね。

  13. @イチカワナツコ
    さん。そう、句読点つけました!普段読んでくれてるのが伝わります。いつもありがとうございます。この文字たちもいつかは風化するので諸行無常ですなぁと思いました。

  14. 冒頭の「カルシウム」が印象に残り、第2連で静かな時の流れが感じられ、そして第3連で突如ケイトウが、それこそ鮮やかに登場するのが心に焼き付きます。文章は滑らかに流れ、ところどころに独特な言葉や視点や表現があるのが胸を打ち、物語のような詩は思いやりをもって閉ざされていく。余韻がいつまでも残ります。

  15. 歳月の、ゆるやかな流れを想ってみました。…無常ですね。

  16. @Yatuka
    さん。確かに!毛糸の枷みたいでもありますね。
    もったいないお言葉ありがとうございます!でも、これらの感情の出どころである経験の一つはうんと歳を重ねてからの経験でありますように、とは願います。

  17. @佐藤宏
    さん。丁寧に読んでくださりありがとうございます。
    植物の逞しさと人の手が刻んだ数字が実にまろやかだなと感じた次第です。「思いやりをもって閉ざされていく」って素敵な言い回しですね。感激しました。

  18. @長谷川 忍
    さん
    無常ながらも人が施した空間にはその情念の残り香みたいなものがいつまでも漂っているように思います。

  19. すごいです
    親子はの血は所作をトレースする
    理屈じゃない

    誰かが呼んでいる
    でも、その声に気が付かなくなってしまっています

  20. @那津na2
    さん。遺伝した骨格や脳細胞の作りから仕草って出来上がるのでしょうか。
    興味深い!
    文明以前の人類はもっと声が聞こえて、日常的に使いこなしていたのかもしれませんね。

  21. コメント失礼いたします。

    最終連目の

    またお元気でお会いしましょう。
    どうか、お元気で。

    優しさと憂いを感じる心地がいたします。
    きっと、遠く、或いは近く、でも触れられないなにかへの想いがあり、その瞬間は、静かなのだけれど、でもじんわりしたものが優しく、でも力強く、空間と人間の中に佇んでいて、そして広がるような、入ってくるような、そんなイメージを抱きました(乱文すみません)

    そう、とても前向きな言葉だと感じたんです。

  22. @ぺけねこ
    さん。心のこもったコメント、ありがとうございます。
    その人なりの寿命を使い切って命を終えてゆくのでしょうが、こんなに心配で苦しくなることは、生きていく上で必要なことなのかとぐずぐず考えて、人間は弱いなぁって噛み締めます。

  23. あなたがあなたの中で生き続けている方を思うとき、その方は私の中でよみがえります。そのように繰り返すことで永遠に繋がりますように。

  24. @babel-k
    さん、願ってくださりありがとうございます。
    いつか自分がこのを世去ったのち、今までの様々な事象の仕組みがわかるのかもなーって。それだけは楽しみです。

  25. ケイトウの赤を背景にして、時間の経過、重ねた経験、健やかなお子様の成長に、たちまこさんの強さとしなやかさが滲み出ていました。もちろん、他者を慮る優しさも。

  26. @渡 ひろこ
    さん。いつもひろこさんの言葉には生きるエッセンスを注がれるここちです。
    そして観察眼というか察する脳の能力が優れているのだなと感じるのです。
    ほんと凄い人!

コメントするためには、 ログイン してください。