旅立ち

初めて空を飛んだ日
恐怖よりも喜びが勝った

蹴り上げた土手は
みるみる遠ざかり
春のまだひんやりとした風が体をかすめて
また舞い戻るようにして私を包んだ

見上げた空に追いつくように
私は風を切って上昇しながら
一瞬
土手の草むらを振り返る

使い古した黒い革の鞄
こげ茶色の靴からはみ出る痩せた足首

私はふと 妻と子供のことを思った

だがもう一度吹いてきた風に導かれ
やがてそのまま吸いこまれるように
蒼に溶けこんでいった

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