いのちの握力

膿と血の匂いが微かにする病室では
痩せ細った祖母の腕に
点滴の痣がまばらについていた

か弱そうに見える指で
しっかりと握り返す感触に
反射的に熱い涙が湧き出し
覆い被さるようにぐっと抱きついた

日は沈みかけ夕闇が迫っていた
くぐもった涙声が聞こえたのだろうか
その瞳は宙を見たままであったが
祖母の両手は私を強く抱いた

あの日の背中に感じた
いのちの握力は
私を何度でも抱き締め
愛を 命を 心を 語り続けるのだろう

投稿者

コメント

  1. あらゆることは、あらゆることと言う枠におさまり、しかもそこからこぼれてくる、あらゆることは、わたしのものである、しかもそこから他者へと、あふれてくる。あらゆることがあふれてくるのが、詩の世界そのものである。

  2. @坂本達雄
    他者へと、あふれてくる…そのように、坂本さんにも私のこの詩の熱量が伝わっているとするなら、とても嬉しく思います。コメント頂きありがとうございます。

  3. 嗚呼、これはたまらなくなります。
    病院のにおいの中にひかる愛する人の存在と感触が美しいです。

  4. 生まれたての赤ん坊の小さな手のひらに人差し指を差し入れるとギュッと握り返す反射行動がありますが、この詩の『いのちの握力』にはそれとも似て非なるものを感じます。とても素敵な詩ですね。

  5. @たちばなまこと
    そんな風に感じて頂き、嬉しく思います。一部は変えつつ実体験をもとに、亡くなった祖母との別れを描きました。実体験がもとになると、詩的ではなく写実的な表現になりがちですね。綺麗な飾った言葉ではまとめられない思いを無骨に綴りました。ありがとうございます。

  6. @あぶくも
    なるほど、ある意味ではあれも反射的なものだったのかもしれません。もう私を私だと認識できない状態でしたが、本当に年を取ると子どもがえりする…というのもありますね。祖母に抱きついた時、ぽん、ぽん、と子供の時のように軽く背中を叩かれました。まだあの感触が残っています。ありがとうございます。

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