ボーカル

そして歌声がかき消されて、しかも
血も流れてはいない、大地に
苦しくするのは漂流するペンギンです
船の出る港の まったく 静けさの夜
そこで 歌っている それは誰
離れた電源から、黒くて堅いコードで、運んでいる 声
蛇のように 曲がりくねった 声
そんな声を踏んづけて、つまり
ハッカーたちの思惑が扉を開けて、見る
汚い仮面のまま、いつまでも覗いている
そこでさあ そんなあたりまえの 桟橋から つまづく
歌を歌え

こころの準備が必要です、つきあたりの壁
ピカソの絵を飾っている、冷たい壁
指のたどる シンジケート
厚い壁を すりぬける 声
蠅が歌っている
それはじゅうぶんに、こころをふるわす
船はいまから出て行きます、誰の声
不自然に顔を見せている、ボーカル
ライトを向けられて 眼をほそめている
けれども
ここはステージだし
りんごとレモンとシナモンが、歌うだろう
ピアノを叩き壊し、ビルが爆破される
こころをふるわす 歌声です
たったひとりのステージで、照明が落下する
奈落の底へ
小鳥が歌う
船は沈む
そして そのひとは ボーカル。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 「ボーカル」というタイトルが示唆するイメージから幕が上がると、一見何も関連性がなく偶然のようにそこに配された言葉たちが、化学反応を起こしながら必然の如く飛躍していくビジョンを展開していく。初めて映画を見た大昔の人々は、それを魔法か手品だと思っただろうが、それに近い感覚を味わった。どんな風にこれを書き上げたのだろう。

  2. それらはすべて、予定されないものです、自由に、どこまでも自由に、しかし単なる連想ではなくて、そこにはだれかがいる、そいつを呼んで来て、そいつに語らせよう、おまえは誰だ、なにかを期待させて、詩を書かせる、おまえは誰なんだ。

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