湖畔の王様

昔昔ある所に、一人のお姫さまがいました。

お姫さまには、優しい兄君と姉君がいて、

子供の頃からとても仲が良いと評判でした。

王さまとお妃さまは、よく怖い顔をして、

無邪気に笑うお姫さまたちを怒鳴りつけました。

「お前たちはいつまでも子供ではないんだよ」

お姫さまはそのたび、言葉の意味を考えて、

どうしても理解できないことに、悲しくなるのでした。

お姫さまは光とじゃれるのが一番好きでした。

森で隠れた動物たちを見つけるのも得意でしたが、

詩や絵や歌を読み書きする才能がなかったので、

いつも神さまのお話をねっしんに聴きました。

まず姉君に女の子が産まれ、兄君が男の子を設け、

叔母になったお姫さまは、いつもより幸せでした。

次の王位を争い、姉君が男の子を暗殺するまでは。

いつまでも子供ではない、という両親の言葉を、その時、

こういうことだったんだとお姫さまは理解しました。

姉君とその夫は、それぞれに相応しい刑に処されました。

お姫さまは悲しみに暮れ、罪を問う力もありませんでした。

もしも今度殺されるのが、自分の産んだ我が子だったら?

人の心を忘れて、無垢な赤子を殺すのが自分だったら?

お姫さまは鳥のように気まぐれで、好きな人がたくさんいました。

でも、そのうちの誰かと番になることは考えられませんでした。

たとえその誰かが、お姫さまを誰より大事にすると誓ってもです。

お前たちはいつまでも子供ではないんだよ、と呪いをかけた、

王さまとお妃さまには、本当の愛が分からなかったのでしょうか。

少なくとも、お姫さまには、間違っているような気がしました。

お姫さまは、湖の近くに小さな城を建てて貰い、本を読みました。

十年間一歩も外に出ることなく、ろうそくの明かりを眺めました。

もう二度と変わることのない、真実が何かを知りたかったのです。

お姫さまの周りには、もう彼女を子供だと笑う人はいませんでした。

光は眩しく、動物たちのお喋りに耳を澄まして、神さまに祈るうち、

国からは王族の血が途絶え、導き手がいなくなってしまったのです。

お姫さまは民に請われながら、小さな国の王さまに即位しました。

冠やマントに身を包みながら、王さまが玉座に座って聞いていたのは、

思い出の中の、幸せそうな兄君と姉君とお姫さまたちの笑い声でした。

投稿者

神奈川県

コメント

  1. 内臓がきゅっとなります。
    それでも民には王が必要なんですね。
    昔はこのような物語がたくさんあったのだろうと想像します。

  2. @たちばなまこと
    有り難うございます。
    現代に生きていて何故こんなお話を書きたくなるのか、自分でもよく分かりません。
    同じことが今繰り返されるのが怖いような気もするし、この時代特有の悲劇が好きな感じもします。

    王さまが良い治世を行うことに対する、願いが一番強いですかね。無邪気な創作です。

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