悪魔と天使

  
                        

 一人の少年の中に、ある悪魔が言いました。
「僕が、僕を遠ざけて来た人を、どれだけ愛してきたか、知ってる。でも、なんで、それを僕が告白しなきゃ、いけないんだ。先に僕に、不当なことをやって来たのは、みんなじゃないか? 悪口を言った。自衛のための暴力を、行使した。でも、全員にそれをやったら、みんなが僕を、遠ざけるだろう」
すると、それを聴いていた少年の中にある天使が、囁きました。
「お父さん! お母さん! みんなみんな、僕は大好きだ! お母さんが、三歳の時に、僕が履いていた赤い靴を、小学六年生の頃、捨てる時に、僕に『捨てたくない、捨てたくない』って言って、僕はとっても恥ずかしくって『捨てて、捨てて』って言ったこと、覚えてるよ。僕は、本当は、とっても恥ずかしがり屋なんだ。お父さんと、お母さんの若い頃の数少ないツーショット写真を破って、お母さんが大激怒したこと、覚えてる。お父さんも、頭に来たよね? 僕は、本当に悪いことをしたと思ってる。ごめんなさい」
すると、それを聞いた悪魔がこう言いました。
「ちょっと待って! あの時、お父さんとお母さんは僕に、不当なことをしたじゃないか? 僕は、お父さんとお母さんのいいところ、悪いところ、両方覚えてる。なんで、片方だけ言わなきゃ、いけないんだよ。フェアじゃない。スポーツマンシップじゃない。みんなのいいところ、わるいところ、両方覚えてるんだぞ! いいところだって、いっぱい言える。でも、不当なことをされたから、訴えてる」
すると、天使がこう言いました。
「もう、忘れよう。その方が、お父さんとお母さんのために、いいなら、早く仕事を見つけて、今この瞬間を忙しなく働き、働いて働いて、少し疲れて、休んだ時に、思い出すくらいにしよう」
それでも悪魔は納得出来ません。
「分かってる。分かってるよ。そうする、そうするよ。それが、大人になるって、言うことなんだね。もう、忘れるように、努力するよ。美味しいもの食べたり、そう言う、今この瞬間、瞬間が大切だって気持ちが、とっても素敵なことくらい、僕だって、分かってる。僕は、みんなを覚えてる。みんなが僕を忘れても、僕は忘れない」
すると、最後に天使がこう言いました。
「うーん、忘れちゃダメだね。とりあえず記録しよう。記録しとけば、いつか振り返った時に、思い出せるからね」
天使と悪魔が手を繋ぎました。商談成立。おしまい。

投稿者

茨城県

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