蠍
毒針を千切って揚げる
小さなおつまみ
テレビで見た異国の食料
毒針のない人間の方が
シンプルに強くて
頑丈で骨があって容易に死なない
毒針を刺して獲物を捕らえる虫の
毒針を千切り
命を落としても食べる
恐れでは敵わない
分が悪い
強者に抵抗するための希望としては儚い
蠍の
砂しかない土地で確実に獲物を仕留めるための
一滴の涙
砂の中で尖らせた殺意
渇ききった悪意
咬み千切られる柔い甲殻
毒針を抜いた暁には
殻を噛み砕いて
飲んでやれない毒を砂に溶かす
刺されても死なない醜さで
おいしく
脱け殻の美しい孤独を食べる
コメント
毒針を持つ蠍=弱者、毒針を持たない人間=強者、という逆説的な対比が鮮やかでした。弱いからこそ毒を持っているのだ、という真意が込められています。
弱き者としての毒針を持つ蠍になぞらえているのは何者か。しかも、その抜け殻の美しい孤独を食べる強き醜き者は何者か。
Yatukaさんの世界ではしばしば強い人弱い人、罪と罰と赦しなどが描かれてます。
私も弱い人ほど武装すると感じています。人はそんな弱くて強い武器を持った蠍すら食べてしまうんですよね。(猛毒を持つ種は少ないらしいですが)蠍側に立つと敵も多いし生きづらい。優しい視線です。
いやあ、みなさんそれぞれの着眼点で面白いなあ。食べる・食べられるという自然界の強者・弱者の構造における毒虫の立ち位置に焦点を絞ることで、生命の虚しさみたいなものも感じました。ちなみに、この世界で最も人を殺す動物は蚊だとか。
この詩を拝読して、蠍の運命をYatukaさんの冷静な目で捉えた静かな生と死の詩だと感じます。
一滴の涙の採集は終わりました。
これで。ありがとうございます。
蠍を、弱者と捉えた書き方に惹かれました。最終連目の「孤独」が効いていますね。
刺されても死なない醜さで
おいしく
脱け殻の美しい孤独を食べる
@たかぼ
無意味ではないのですが、
アニマルプラネットで観ていたミーアキャットたちの主食にもなっていて。
毒とは一体なんなのか。
むしろ毒を持たない方が捕食されなかったかもしれません。
@あぶくも
サソリを美しい形だとは思わないのですが、惹かれる魅力があります。
存在感が独特ですよね。出来れば、食べるなんて野蛮なことをせず、観察していたいですかね。
@たちばなまこと
毒は持っていても、死に至らしめる程ではない、という生物は多そうなイメージです。
むしろ避けられる為の、消極的な武装というか。
落書きをする時は補色を並べるのが好きでした。対比すると面白くて、違いを見付けるのが楽しいんだと思います。
@トノモトショウ
サソリ=食べ物、が一番強い印象だったので、私はそれをそのまま書いてみました。
ゲテモノ食いの対象になることが、子供心に同情して記憶に残っていたのかもしれないです。
ちょっと感傷的ですかね。
@こしごえ
有難うございます。サソリ、何処が好きなのか分からないので、自分では絶対に題材に取らなかっただろうと思うので、様々なコメントをいただけて新鮮です。
@足立らどみ
排泄物ならなんでも代替できるかもしれませんが、「蠍」の詩では涙にしました。悲しさを毒に喩えることは、結構よくあります。
@長谷川 忍
自分の中に、おいしそうな孤独、という感覚がある気がします。人気の詩人は皆孤独を売りに生きているのではないか、と思ったり。斜めに読み過ぎているでしょうか。
刺されても死なない醜さで
おいしく
脱け殻の美しい孤独を食べる
最終連に惚れました。
@nonya
何も考えず、食べられる物は頂きます。
それが生きるということです。