トランジスタ回路
やっと発見された洞窟の奥に
なんとも不可思議な回路が走っていた
鍾乳石の内部から合金の線が伸び
高い天井へと石に巻きついて広がり
ところどころで線はわかれ
遥かな洞窟の奥へと果てしないかのように伸び続けている
我々は探索基地へ戻ると、缶詰を開けて
遅い昼食を取った、ジャングルの湿度は高く
猿たちの威嚇する声がやまない中で
加藤君は恋人の写真を胸のポケットにしのばせている
昨日の夜の話しでは、来年には彼女のお父さんの会社が
タイに進出するらしい、その予定だと言う
焚き火を囲み、洞窟の広さについて話し合っていると
コウモリがやけに集まって来る
わたしはポケットのカカオ85パーセントのチョコを
瀬川さんにも分けてあげる、暗い空である
もし明日、洞窟の奥へと進むのなら
二つの隊に分ける必要があると、梨河隊長が言うので
わたしは先行する隊を希望した
コウモリはすでにどこかへ飛び去っている
星がまたたき出している、横田さんは薬品箱の中を整理している
「そういうことなので、明日もよろしく、じゃ夜間警備の人以外は
早く就寝するように」と隊長が言う
どんどん星が増えて来た
もう空一面が光っている
加藤君がわたしのそばに来て、タバコをくれませんかと言う
わたしは3本渡す
火をつけて彼はぼつぼつと話す
「明日は一緒の隊になりましたね」
あの不思議な線は、なんなのでしょうね
まるで脳内のニューロン見たいでしたね
わたしはそのことについては、話したくなかった
なぜならあるひとつの秘密を知っているからだ
「脳の構造はあんなにシンプルではないよ」
夜間警備の田村君が、ひまそうにあくびをしている
一応腰にはナイフサックを下げている
星はますます輝きを増している
加藤君の吸うタバコの火がぽうと明るくなる。
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