Slow Dancer

困っている仲間を前にすると
ほっとけない奴なの。

ついこの間も
泣きべそかいている女を
一生懸命慰めてた。
結局だまされ
金まで巻き上げられちゃって。

付き人の借金の肩代わりをしたら逃げられる
相棒のけんかに割り込みやくざにはぶん殴られる
飲み屋のママの愚痴話に朝まで付き合っちゃう
別れた奥さんをひたすら賛美しまくる
お客の誰もいない興行で満面の笑顔を浮かべる
道端のコオロギにまで愛想をふりまく始末。

言ってやったのよ。
要領を少しはわきまえなさい
もっと利口になりな。

アイツ
へらへらしながら

お人好し馬鹿でいいんだ。
何ごとも「極める」べきだ。
いちばんいけないのは
中途半端に小賢しくなっちまうことだ。
いいか
最悪だぜそういうのは!

舞台がはねた後の
しゅんと静まり返った無人のステージの上
小瓶の安ウイスキーちびちび嘗めながら
独り一心に
ステップを踏み続けている。

宙を見つめる眼差しと
パントマイムの指先が
なぜだか、妙に、懐かしいのよ。

私がここから隠れ観ているのを
知っているみたいに。

投稿者

東京都

コメント

  1. 何と味のある詩でしょう!中途半端に小賢しくなってしまっていやしないか、自身を振り返りながら、この詩が朗読されるステージをここから隠れて観ていたい。

  2. 長谷川さんの新たな一面が出ましたね。話者とアイツの関係性を想像すると、余計に愛おしい作品です。

  3. 極められるひとというのに尊敬と憧れはあります。好きであり続けて応援することで寄り添えるとよいなと。
    どの連も素敵なフレーズがあります。
    たけしさんの『浅草キッド』を少し思い出しました。

  4. ものごとを極めようとする人には
    見た目はどうであれ、そこはかとした凄みを感じます。
    中途半端なプライドなんて、ちっちゃくて
    どうでもいいことなんでしょうね。

  5. @あぶくも
    あぶくもさん、これほど極端ではありませんが、私も、お人好し馬鹿です。…で、人生ずいぶん損をしてきました。この詩は朗読を意識して作ってみました。朗読には、興味があります。

  6. @トノモトショウ
    トノモトさん、話者は、…たぶん、昔、アイツと付き合っていて、でもダメになって、バカヤロウと思って、でも忘れられなくて…。
    男と、女って、難しいですよね。

  7. @たちばなまこと
    たちばなさん、なるほど、たけしさんに被るところがあるかもしれません。たけしさんにも、こういう青春があったのかな。…不器用さなのかもしれませんね。

  8. @nonya
    nonyaさん、プライドはありますが、なるだけ持たないようにしています。どれだけ自らと向き合えるか。…ちょっと極端な詩になってしまいました。要領と、頑固のあわい、今も迷っています。

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