透明な神の
ふたしかな夜である
やぶの中にはまな板がある
雨が降っている
から魚はおぼれている
浜ひるがおの花が重たくなる
ポイントはきり
変えられたかしら
と駅員は歩く夜の線路のうえ
ふたしかな月の夜がやってくるだろう
林の奥にしめりけがおり
てくるので
ホタル一匹
だんだんと夢ざかりのころへと
衣服までしっとりとぬれて
ずるずると命が光るのである
まじまじと見つめることができるのである
ふたしかな霧の夜だろうか
透明な神の視線がこれらのものを
つらぬいているので
土の器、木の器、木の実の形、けだものの歯
指先からのひかり立ち
はくいきはオーラ
指先からのひかり立ち
あのひとの肉体から霧たちのぼる秋のゆうぐれ
昼である、女の肩からさげられた
サンマをいれたあらいかごは重い
草の葉からもまた、愛は蒸散している
メスデストハリ・メスデストハリ
くまぐすの見た天狗のようだ
そして胎内の中性子星からは白い気体がたちのぼる
いまもまだ我々の夜のくらすぎる遺体の
影にいる
メスデストハリ・ウラワーカモス
ひとはみなしんで、ほんとうのひとになる
だからおそれるな
川面に霧たちのぼり
わたしのこころもまた霧の中にきえていく
フランス人の民俗学の教授が
大学のクラブの部屋で学生を相手に将棋をさしている
ときたま動く盤のうえの指に
冬の陽がさして
部屋の中をゆっくりと舞い上がる
かすかなほこりのひとつひとつが
よく見える
「先生。先生はコンゴの方へも行かれたんですって?」
飛車道があやうい
「あそこは、たいくつでした」
歩をつく
「いま、僕の友人が行ってます」
角成りと
「死にそうになりました」
金打ち
「先生がですか?」
桂馬はね
「ハイ」
部屋の中をゆっくりと
かすかなほこりが
舞い上がる。
コメント
霧の中の回想(?)の前半と後半があるように感じました。
しかし世界線は同じなのかもしれません。
愛は蒸散している、ってかっこいいフレーズです。
この作品の場合は分裂している理由はわかりません。ただ何十年もの過去に少し高い位置から部屋の中のほこりがゆっくりと動いているのを見ました。その光景が浮上してきてわたしに何かを伝えようとしたようです。しかしその内容は不明のままです。なんなのでしょうか?