あなた
あなた ぼくの気を惹こうとして群を離れて走って行き遠くの森でシロツメクサを摘んでいたら真冬の空はいつになくお天気で大好きな太陽がやさしく輝きいじわるな風さえも心地よい歌となってぼくの絹のような髪を愛撫したときあなた ぼくと目が合うと驚いてそれでもそしらぬ顔で目をそらしあなた ぼくに心を見抜かれないように努力して大げさな身振りでぼくの心を奪おうとしたしその行動は確かに賢明でぼくはあなた 夢中になり今すぐ行動を起こしてあなた 奪ってしまいたいと思いぼくはあなた 心を試すためにあなた 見つめ優しく微笑んだけれどあなた 走って行かないで明るい光の中で酔いしれるようにじっと佇み空を仰いで目を閉じ銀のたてがみに玉の雫のように降り注ぐそよ風を髪といっしょに舐めてみたらあなた 耐えられなくなって遠くの森まで走って行きセコイアの幹に麻紐で枯木をつり下げただけの粗末なあなた お気に入りのぶらんこの側でシロツメクサを摘み始めたのでぼくはついくすっと笑ってしまったけど今からこっそり森の中まで歩いて行きあなた 幼い角をそっと触ってびっくりさせてあげよう
コメント
幼い角にシロツメクサの冠をそっと飾ってくれて、くぐもれる下草ののどから下はつややかな、真綿のころもは風にはこばれ、もはやそれさえも捨ててしまうあなた。
あなた 紡ぐ助詞の欠落がこんなにもあなた 際立たせつつ、一気読み系の詩にリズムを与えてくれるというのはあなた 謎解きにも似た発見であなた やるねほんとにやるねとあなた 讃えたい
@坂本達雄
さん。素敵な返詩ありがとうございました!
@あぶくも
さん。真摯な解読とウィットに富んだコメントありがとうございました!
仔鹿ならぬ仔ユニコーンって感じかな。ファンタジックなのに微細な描写の現実感があって、一気に情景が広がっていくのが、たまらんです。
@トノモトショウ
さん。まさにユニコーンさんをイメージして描きました。いつもありがとうございます。
こっそりと撫でてみたいたてがみ。
ロマンティックなのに少し不安にも感じるのが魅力です。
@たちばなまこと
さん。いい感じに読んで頂きありがとうございます!
この詩の中で描かれている「あなた」は、もしかしたら、ひとりではなく、無数の、無限の「あなた」でもあるのかな…? などと勝手な想像をしてしまいました。ひとは、一瞬、一瞬で、表情が変わりますし、姿も、存在そのものも変わります。…あなたは、無限。
@長谷川 忍
さん。私自身ハッとさせられるご洞察、ありがとうございました。