プラクタス

冬の雨が灌漑用の小池に降っている
高速度で走る馬が、その周囲を調教の道としている
彼の大きな夢について昨日は聞いた
父からの教えが彼のシンプルな調教を支えている
戦時中には軍からの依頼で
超高速度で走る馬を育てたと言う
その頃には父は毎日巨大な蛇を捕まえて来て
焼酎につけこんだと言う
それを馬に飲ませると、それはそれは
とんでもないスピードでこの池の周囲を走ったと言う
彼の父の名は陸軍では大変に知られたものとなり
当時の陸軍大将が視察に来たらしい
その日は良く晴れた日であった
馬には特別誂えの鞍をのせ
それは午後の太陽の光をさんさんと受けて
金色に輝いたと言う
そして陸軍大将は颯爽と馬にまたがり
鞭をいれた
馬は父の言葉のとおりすばらしい勢いで走り出した
見守る人々の前で馬は最大のスピードを出した
大将は感激して馬上で叫んだ
「大日本帝国万歳!」と

その次の朝、わたしは馬にいつもの餌をあげていた
すると馬の眼から涙が流れ落ちていた
わたしは父にそのことを告げた
すると父は言った
「早く走る馬は、未来が見えるらしい」
「あいつは自分の未来が見えたんだよ」
わたしは父に言った
「大陸で死んじゃうのかい」

冬の池に雨が降る
すると水面にはこまかな輪がいくつもできる
それはさびしい風景である。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 馬の目から流れる涙。
    冬の雨が灌漑用の小池の水面に描く波紋。
    死も、戦争も、輝かしい夢も、
    すべて一枚のさびしい風景の中に収斂していく。
    さびしいが、しかし、だからこそ美しい。

  2. 現在では馬は戦争の道具とはならないようですから、これらの光景は総て雨の輪となって消え行ってほしいです。

  3. 軍馬の徴用で悲しい歴史があったそうですね。

  4. この詩はまったくの想像で書いています。ただ馬にはなんだか親しみと、恐れとを同時に感じます。軍馬となればそこには言うことも辛いものがあるでしょう。それは語って美しくなるものなのか。いまはわかりません。

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