『象牙の太陽』
ポッカリからりと晴れた日に
ぼくらは浜辺に横たわり
あなたはぼくの胸に聴診器をあてて
―ふむ 聞こえませんね
などと呟いて
いきなり後ろ手に持っていたハンマーを
胸に目掛けて振り下ろし
ガツンとばかりに割ったのでした
そうして二つに裂けた断崖で
化石を見つけるような仕草をしながら
刷毛を注意深くあてて
やがて感嘆の声を漏らし
深いためいきをついたのです
あなたの両手には象牙でできたような
丸いものがありまして
それを波打ち際に置くと
またまた後ろ手に持っていた鬼刀をやおら振りかぶり
目をギラギラさせながら
―この中にはマグマが眠っているに違いあるまい
と侍のような口ぶりで
しかし口元は微かに笑っているのでありました
ぼくはむんずとその手を制し
―いやいや今度は僕の番だ
とばかりにあなたのブラウスを引き千切り
ぷるんとした二つの乳房の真ん中に
電光石火の如くハンマーを打ち込んだのでした
―嗚呼 わたくしはまだ半熟にございますぅ
と急に女中のようにへなへなと
蚊の鳴くような声で叫ぶ間もなく
ぱくりと割れた胸の谷間から
とろりと黄身があふれ出し
あなたはぱったり倒れてしまったのです
ぼくは慌てて象牙の玉を拾いあげ
あなたの裂けた胸に押し込んで
あなたの躯を抱いたのです
岬はすでに西日が射して
ぽっくりあいた胸を凛と輝かせ
ぼくはあなたをしっかと抱えたまま
海へと歩いていったのです
ー深海で貝になろう
そう呟くとあなたはかっと目を見開いて
ーオーパルになるのですね
オーパルに
と目から耳から口から真っ赤なマグマを吹き出しながら
微笑んだのでした
ーああ そうだとも そうだとも
海水が胸にどんどん入っていくのを感じながら
何度もそう言って
何度もそう言って
*オーパル←オパールの意
コメント
短編映画を観るような、読ませる作品でした。ふと挟まれるユーモアと不条理が面白い。
ありがとうございます^^
マグマや地殻変動や気候の営みが鉱石を生むように、壮大で伏線が張り巡らされた物語ですね。