馬

名を呼ぶさきに、駆けだしていた
失明したのだ、失恋したのだ
この馬は
野性の脚で蹴って
情念の天幕を黒色の断絶を
大陸のステップの
健全の明日をその脚で蹴り上げて
男はジキタリスの花を飲み
すばやく雲は龍頭の先へとどろく
何万里も先に女は立っている
その名を呼ぶ
馬の腹は砂の山のピリピの弦
直進する蛇行するボッキする
たてがみを打ち鳴らし
こぶしをかき鳴らし
情欲する、哀願する
テントウする
金属の打ち叩き、霊像の悪陰する
ボロ布の包まれて水玉の寒冷する
見よ、そして見よ
地平線はどこまでも黒くわだかまる
何万もの俗悪たちが
悪態つく、あれが地上の馬だ
けたたましく笑う、あれが極まれる馬だ
助命せよ
こやつは大地溝帯の悪霊たちを
地獄より呼び寄せたのだ
わたしの腰の帯につるされた
剣は金剛の大地をめぐるその果ては
超然と咆哮する
この馬の名を、金糸の名を
火宮の塔の先端に
失明する、失恋する、火口する、火噴する
焼き尽くせ馬よ
わたしとおまえは掠奪の焼声だ
火のように駆ける
火箭のように跳躍する
きっと流星は
荒野に落ちる
一直線に。

投稿者

岡山県

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