ニンゲン失格

午後の生ぬるい図書館で 退屈と眠気のあいだを 振り子のように行き来しながら

頭の中では 隣に座った 白いブラウスの女のことを考えている

読んでいるわけでもない太宰治のページの端を 人差し指と親指で弄りながら

隣の女の 白いブラウスから透ける 黒い下着を感じ取っている

おれの目と太宰治の間に浮かんでいる 空気の層にピントを合わせながら

隣の女の 黒い下着に包まれた なめらかな身体の曲線を想像している

思いっきり大きなアクビをしたら たくさんの涙が溢れてきて

こぼれかけた涙を手の甲で拭っているところを 目敏く見つけた隣の女が

「どうかなさいましたか」と 不自然なまでのさりげなさを装って声を掛けてきたので

「死んだ妹のことを思い出したんです」そう答えると 女は

訊いてはいけないことを訊いてしまった という恥ずかしさのせいだろうか

頬を赤く染めて目を伏せ 小さな声で「ごめんなさい」と 呟いた

嘘だ 妹は死んでなんかいない それどころか おれには妹なんかいない

おれの頭の中で 女は ブラウスのボタンを ゆっくりと外しはじめていた

投稿者

大阪府

コメント

  1. そんなこと言われたくないと思うんですが、自分が書いた詩かと思うくらい好きなテイストでした。ニンゲン失格、ビースト合格、ですね。

  2. ややっ! これは良い。

  3. @あぶくも さん
    身に余るお言葉、ありがとうございます。ニンゲン合格できる人っているんですかね(笑)。

  4. @たかぼ さん
    ありがとうございます!

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