水的生物

おまえが結婚すると言うので
わたしはとまどってしまうのだ
何か言わなければと思うのだが—
明日海には朝日が輝くだろう
磯には貝殻がキラキラと光っているだろう
青い空には二月の雲が
低く流れて行くだろう
ながい時間ここでおまえを待っている
うちうみを船が行く
海岸の樹々が風に鳴る
俺たちの運命は三角形で
俺たちの魂は水色だった
巨大な工場は紫の時間をビン詰めにした
地上を歩く動物たちは片足を上げた
街角の小さな店で花模様の花瓶を見た
旅客機の翼に小さな蝶がとまっていた
高速道路のトンネルの入口の壁に
『日本海まで百キロ』と書いてある
ビニール袋は風に舞い上げられて踊る
おまえは結婚すると言った
あの雲は、ゆきぐもにちがいない
ゆっくりと街の上に降りて来る
カラスが二羽高い処を風に逆らって飛んで行く
冷たい午後だ
わたしは水から生まれた
冷たい風だ
おまえは水から生まれた
丸い地球の丸い表面のかきまぜられた水の中に
わたしは誕生し
わたしは死んで行く
そしてわたしはおまえの中に流れ込むのだ
この宇宙全体の百三十八億年が
おまえの中に流れ込む
わたしは水的生物
そしておまえは

だから。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 坂本達雄さんいつも素敵な返詩を
    ありがとうございます

    結婚をすると言われて
    何を言ったらいいのか
    いろいろ考えてしまう感じが
    自分も経験があるので
    わかります!

    旅客機の翼に小さな蝶がとまっていたってフレーズが自分は好きです(о´∀`о)

  2. @紙魚チョコ
    紙魚チョコさんの言葉の選択は、いいですね、少しスピード感がありすぎと感じる時もありますが、じっくり語る時はじっくり時間をかけても良いのでは、もっと深まりますよ、もっともっと深まりますよ、それは冬の寒さのように、まちがいないこと。

コメントするためには、 ログイン してください。