聞こえて来たポーラ
耳をすまして、冬を聞けば
風の音、雪の音、水晶玉の音
くだけてちる、冬の音
注意深く、何しろ注意深く
密林のカノンの荘厳なひびき
それを聞けば
すべての河はバレンシアオレンジの香りがする
喫水線の香りがはぐれた鳥の羽に
申し分のない表情を与え
白いスミレの花をかぐわしい土手の崩れ
猿のように町の屋根を逍遥しては
つとに、タンパク質の贅沢を
アーモンドの缶から遠きしげみへと咆える
読み手は、草をむしり、聞く耳は
しばらくのトクサのように
自在に冬を探査する
満ち足りて裸木のじさまに告げる言葉は
北からのスイカズラ、浅香山のツタカズラ
少年の言葉は冬の道を木枯らしにするから
もっと、ロマンチックに
落ち葉をならべて、美しく
はききよめられた、京の寺の氷のように
話してください、チョコレートの
冷たい本のはじめの一ページあたりから
さまよう言葉の体温を測り
きっとわたしは《ミル》
それはつたない表紙を持ち
冬の空から静かに降って来るもの
知るためには、むしろ知ろうとしない
そんな風の音
雪の音
水晶玉の沈みゆく。
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